外国人ねらいの「ぼったくり価格」ホテルばかり… 日本人の血税”1.3兆円”で生かされたはずでは

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兆を超える税金で救済されたホテル業界

 要するに、外国人にとってはホテルだけでなく日本のすべてが割安で、お得感がある。だから、すでに大幅ディスカウントも同様だったホテル価格が多少上昇したところで、彼らには大きな影響はない。その結果、宿泊費を値上げしても、外国人を中心に高い稼働率が維持されるとなれば、ホテル側は料金を上げ続ける。外国人一人当たりの宿泊費も平均泊数も増加し続けている以上、ホテル側が強気の料金設定をするのは、ある意味では、当然だといえる。

 しかし、私たち日本人は、ここで立ち止まって考えてみる必要がある。

 2020年にはじまった新型コロナウイルスの感染拡大で、ホテル業界が苦境に陥ったのは記憶にあたらしい。増え続けていた外国人の宿泊者はほぼゼロになり、緊急事態宣言が発出されて国内の出張や旅行の需要も激減。観光庁のデータによれば、2020年5月の国内のホテル宿泊者数は、前年同月期にくらべて84・9%も減少。先行きがまったく見えない状況に、ホテル業界からは人材が次々と流出し、人手不足も深刻になった。

 そこで政府が、観光などの需要を喚起し、ひいては経済の再興につなげようとして実施したのが「Go Toキャンペーン」だった。なかでも、宿泊や運輸などの観光関連産業の打撃が多きかったことから、それらの需要を掘り起こすための「Go Toトラベル」にはとくに力が入れられた。

 ホテルに関していえば、1人1泊あたり2万円を上限に旅行代金の2分の1を支援するという制度だった。なにしろ、2020年度第1次補正予算に計上されたGo Toキャンペーンの総事業費1兆6,794億円のうち、1兆3,542億円がGo Toトラベルに割り振られたのである。

 いうまでもないが、Go Toトラベルの事業費は国民の税金だった。それが兆を超える規模で充てられた。すなわち、いま外国人が次から次へと宿泊するのをいいことに、日本人にとってはべらぼうな高値を押しつけるホテル業界は、わずか4、5年前の苦境時にわれわれの税金で救済されていた、ということだ。ところが、ひとたび外国人が押し寄せると、手のひらを返して日本人に高値を押しつける。こうした姿勢が許されていいものか。

せめて「日本人割引」を

 外国人が高値で泊ってくれるというビジネスチャンスを逃せとはいわない。しかし、外国人を当てにして強気の値段設定をし、結果として日本人が宿泊できなくなるのは、本末転倒だというほかない。日本人の税金を注ぎ込んでもらった過去がある以上、なおさらだ。

 外国人向けの二重価格をためらうのであれば、日本人にかぎって宿泊費を割り引けばいい。「日本人割引」の適用で、せめてコロナ禍前の価格にすべきだろう。税金が投じられた以上、それは合理的な策であるはずである。

 それとも、宿泊費用が安い日本人客が増え、高額でも泊ってくれる外国人宿泊客の比率が下がるのがイヤなのだろうか。しかし、いつまたパンデミックが起こらないともかぎらない。この先、円高が急激に進んで、外国人観光客が激減することもあるかもしれない。なんらかの災害を機に、外国人観光客が日本を避けるようになるかもしれない。それを考えれば、大事にすべきなのは日本人の宿泊客だと思うのだが。

 いまのホテル業界を見ていると、バブル期の地上げが思い出される。目の前の収益に目がくらんだ不動産業者が、地道に暮らしている人を追い出して土地を買い取り、地価を吊り上げ、そこに銀行が際限なく融資した。結果はご存じのとおりである。

 どんな状況下でもホテル業界を地道に支えてきて、これからも支えるのはだれなのか。再考を促したい。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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