「ゼレンスキーの支持率はマイナス100%だ」 新聞・テレビが報じない、ウクライナ国民“大統領への本音”【現地取材】

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トランプ氏への不信感

 私がキーウに滞在していた時期は、ゼレンスキー大統領がホワイトハウスを訪問し、トランプ大統領との間で激しい口論となり、大きな波紋が広がっていた頃だった。

 ウクライナ国内では、トランプ氏の再選に期待する声も一部にあった。しかし、トランプ氏はロシアのプーチン大統領寄りの発言を繰り返し、ゼレンスキー大統領が毅然とした態度を示したことで、国民は溜飲を下げた。

 トランプ氏が主導する和平交渉への失望感も広がっており、先のKIISが3月12日から22日にかけて行った調査によれば、32%が(1)「ウクライナの要求の一部を満たすとはいえ、どちらかといえば不公正な和平」になるとの見方を示し、22%が(2)「完全に不公正な和平」になると予想している。

 昨年12月の調査ではそれぞれ(1)は20%、(2)は11%だったことと比較すると、ウクライナ国内ではトランプ氏の手法に対する不信感が急速に高まっていることがわかる。

平穏な毎日を送りたいだけ

 滞在中、中西部の都市ヴィーンニッツァを訪れた。この地にある墓地にも足を運んだ。戦死した兵士たちの墓地のスペースが敷地内の多くを占めており、この施設の管理者は悲しみを滲ませながら言った。

「この3年間で500人もの兵士の墓が作られた。まだ墓石が間に合わず、盛り土だけの墓もある。今後も増え続けるだろう」

 この墓地で、ある女性に出会った。2年前に医務官だった娘を爆撃で亡くした女性だ。

「母親として今でもこの状況が一刻も早く終わってほしい」

 と語りながらも、そのためには勝利が必要だと強く訴えた。

「ロシアは何度もウクライナを破壊してきた。それでも私たちは前を向いて生き延びなければならなかった。一度戦いをやめれば、彼らはまた攻め込んでくる。娘は私にとってこの世で最も大切な存在である自分の命を捧げた。私たちの次の世代がまた犠牲になることを許すことはできない。私たちの世代で止めなければならない」

 最愛の娘を失い、自身の命も危険に晒されながらも、「勝たなければならない」という強い覚悟。平和な日本に住む私たちには想像もできない悲壮感と、ロシアへの深い恨みがウクライナを覆っている。

 ウクライナ情勢を伝える日本の報道や言論界を見ると、トランプ氏やプーチン氏、そしてゼレンスキー氏といった大国の指導者たちの言葉ばかりが取り上げられ、大国外交に翻弄される現場の人々の気持ちを全く理解しないまま議論が進んでいるのではないだろうか。

 先の母親は切実に語った。

「私たちはただただ平穏な毎日を送りたいだけなのです」

 戦後80年を迎える今年、彼女の言葉の重みを多くの人々がそれぞれの立場で深く考えてほしいと強く思う。

【前編】では、連日続く都市への空爆と、街に鳴り響く空襲警報によって、市民が重度のPTSDに苦しめられていることを詳報している。

佐々木正明(ささき・まさあき)
ジャーナリスト、大和大学社会学部教授。岩手県一関市生まれ。大阪外国語大学ロシア語学科(現・大阪大学)卒業後、産経新聞社入社。モスクワ支局長、リオデジャネイロ支局長を経て、運動部次長、社会部次長などを歴任。2021年より現職。8年前はウクライナのマイダン革命やロシアによるウクライナ併合を現地で取材した。専門分野はロシア・旧ソ連諸国情勢、国際情勢に加え、オリンピック・パラリンピック、捕鯨問題などにも詳しい。単著に『シー・シェパードの正体』、『環境テロリストの正体』、『「動物の権利」運動の正体』など。

デイリー新潮編集部

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