「有吉の壁」発のキャラ「お嬢様と執事」がSNS沸騰、“妄想”拡散で漫画&ドラマ連載も

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程よい作りものっぽい感じ

 でも、今回の執事ネタに関して言えば、そこにあるすべての要素が「絶妙」だったからこそ、多くの人を巻き込むことができたのだ。まず、お嬢様と執事というキャラクターそのものが、漫画やアニメなどで誰もが一度は見たことのある身近な存在である。お嬢様も執事もフィクションの世界にはよく出てくるが、一般人の実生活ではあまり見かけないレアな存在だ。だからこそ、そこに程よい作りものっぽい感じが漂っているのが魅力的なのだ。

 しかも、彼らが演じているお嬢様と執事は、彼ら自身の素のキャラクターにも近いものだった。本人たちが明かしている通り、その場で即興コンビを組んですぐにネタを演じなければいけない「有吉の壁」では、ネタを前もって準備しておくことができない。

 時間が限られている中で、奥田と即興コンビを組んだきょんちぃは、そこにあったたくさんの衣装の中から派手なコートを選んで、身にまとった。何か考えがあるわけではなく、ただ寒かったから着ただけだった。

 でも、そんな彼女の姿を見て、奥田は「金持ちっぽいな」と感じた。そして、そのとき自分が着ていたスーツのポケットに蝶ネクタイが入っていたことに気付き、とっさに「お嬢様と執事」というネタを演じることを思いついた。

 ここできょんちぃはあまり何も考えておらず、しっかり者の奥田が何とか知恵を絞ってネタを作っている、という関係性ができている。おてんばなお嬢様とそれに振り回される執事というキャラクターは、この2人のそんなリアルな空気をそのまま落とし込んだものだからこそ、多くの人々を魅了することができたのだ。

「お嬢様と執事」という、漫画の世界から飛び出してきたような役柄を演じつつ、人物造形としては本人たちそのままの姿で生き生きとしている。このフィクション性とノンフィクション性のバランスが絶妙だったからこそ、このネタは大ヒットした。

 これまでにも「有吉の壁」からは「TT兄弟」「KOUGU維新」などの名物キャラクターが生まれ、番組の枠を越えた活躍をしてきた。「京佳お嬢様と奥田執事」も、それらを上回る勢いでどんどん広がりを見せている。関係性エンターテインメントの最高傑作であるこのコンビが、次は何を見せてくれるのか楽しみだ。

ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。

デイリー新潮編集部

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