搾取され続けるサラリーマンは国家に逆襲できるのか 「無税生活」の実現可能性をベストセラー作家が検証

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どんな副業でも赤字になれば税金が安くなるのか

 しかし業務委託型の副業をして、節税となるケース、つまり本人のプラスとなるのはどのようなケースなのか、想像しづらい方も多いだろう。本当に大赤字を生み出してしまったら、節税になるかもしれないが、余計な借金を抱えることにもなりかねないではないか。

 橘氏がその「成功例」として取り上げるのが、只野範男氏という人物の手法だ。

 只野氏は、実際にこの方法で37年間無税でサラリーマン生活を送ったそうで、そのノウハウを『「無税」』入門』 (飛鳥新社・2007年刊)という本にまとめている。

「只野氏は趣味でイラストを描いており、税務署に開業届を出すことでこの趣味を“事業化”し、収入よりも経費が多い状態にして、損失を給与所得と相殺していた。このことからわかるように、『無税生活』が実現するかどうかのポイントは、損失しか生まない経済行為(というか趣味)が“事業”と認められるかどうかにある」

 事業所得として税務署が認めてくれないと、イラストの収入は雑所得扱いとなる。すると給与所得とは損益通算できず、なんの節税にもならない。只野氏は、”事業”かどうかは納税者が自分で決めるもので、税務署に開業届を出して受理されれば、利益があろうがなかろうが事業所得だと、自著で主張している。しかし残念なことに、そんなに簡単に事業所得と認めてもらえるわけではない。

 実際、昭和56年4月24日最高裁判決や昭和49年8月29日東京高裁判決に従って税務当局のスタンスは、事業所得とは「社会通念上、事業と認められるもの」でなければならないとして、その判断基準を、「いわゆる本業であって、その利益から生活費を求めるものであるか否か」に置いているという。

「簡単に言うと、趣味は事業所得とは認めないということだ」

「無税生活」が可能だった理由

 ではなぜ只野氏に「無税生活」が可能だったのか。橘氏はこう分析する。

「所轄の税務署が事業所得の定義について不案内であったか、還付額が少なく、いちいち問題にするのが面倒だったためだろう。ところがサラリーマンの副業が奨励され、ネット上で只野氏の手法が『サラリーマンの節税術』として広まったことで、税務当局は事業所得の認定を厳しく行なうようになった(略)

 もちろん『がんばって働いても利益が出ない』という状況はまあまああることだから、開業当初は、赤字だからといって税務署が細かく詮索することはないだろう。だが赤字をいつまでもつづけ、給与所得と相殺して”無税”生活をしていると、税務署から事業内容を具体的に説明するよう要求される」

 つまり、只野氏流の「無税生活」は理論的には可能だが、実現はそう簡単ではない、というのが橘氏の見解。

「社会通念上、事業と認められるもの」であることを十分に主張できないと、雑所得とされ、修正申告することを求められるというわけだ。

 与党だろうが野党だろうが、アイデアに富んだ官僚だろうが目端の効くサラリーマンだろうが、誰にとってもマイナスのない“魔法”のようなプランを打ち出すことは難しい。「搾取され続けるサラリーマン」が国家に逆襲を企てるには、かなりの準備や周到な計算が求められそうだ。

デイリー新潮編集部

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