ホンダと破談「日産自動車」が“アメリカで売れる”車を作る「最大のカギ」とは…トランプ関税に揺れる自動車メーカー「中途半端な規模で生き残るのは難しい」

ビジネス 企業・業界

  • ブックマーク

 自動車業界が揺れている。トランプ政権は4月3日に輸入自動車へ対し25%の追加関税を発動し、日本の自動車メーカーは対応に追われることとなった。しかし、トランプ大統領の発言が変化していることもあり、市場がどう変化するかは不透明な状況が続く。そうした状況下で注目されているのは、ホンダとの経営統合交渉が破談になった日産自動車の行方である。

「重要なのはハイブリッド技術」

「日産自動車の今後は、複数のシナリオが考えられます。可能性が高いのは、当面は日産が独力で経営を立て直すというシナリオです。この場合、足元のビジネスを改善することが最優先課題となります」

 と、語るのは自動車業界に詳しい、早稲田大学ビジネススクール教授の長内厚氏だ。

 自動車業界の競争は激しい。今後はEV(電気自動車)やSDV(ソフトウェアを基盤とした自動車)の開発が生き残りのカギとなるとされ、日産の場合、ホンダと昨年末から進めていた経営統合交渉は生き残りの一つの戦略だった。しかし、あえなく破談。今後の日産、ひいては自動車メーカーはどこに向かっていくのか。

「現在、日産が直面している最大の課題は、中国とアメリカという、本来強かった市場での弱体化です。中国市場では現地メーカーの台頭により、EV(電気自動車)だけでは立ち行かなくなり、アメリカ市場ではトランプ政権以降、EV化からの揺り戻しが見られ、内燃機関車の必要性が再認識されています。特にアメリカ中西部では、石炭火力が多いので、EVよりも従来の内燃機関車の方がCO2排出量が少ないという試算も存在するほどです。このような状況で、重要なのはハイブリッド技術、日産でいえばe-POWERシステムの強化です。特に長距離・高速走行時の燃費性能改善が重要です。燃費が改善されればアメリカで売れる車をラインナップに持つことができます」

 自力再建の次に考えられるシナリオは、ホンダとの再交渉だ。

「最も現実的な形として、EVに関する協業が挙げられますが、ただ、アメリカで売れる車を作る、という意味ではホンダのリソースを活用する方が良い可能性もあります。具体的には、ホンダのハイブリッドシステムをOEM(自社ブランドの商品製造を他メーカーに委託すること)で調達し、日産ブランドの車として販売するという方法が考えられるでしょう。言うなれば、車は日産の顔だけれども、内部システムはホンダ製というような形態です」

「ホンダと組んだ方が現実的」

 とはいえ、一度破談になった日産とホンダが再び交渉するということはあり得るのだろうか。

「新しい日産の経営陣や社長に対するホンダ側の評価次第では、再び経営統合に向けて交渉するという選択肢もあると思います。日産の再建に向けては、新社長の手腕が重要となります。現在の社長は商品企画出身で車好き。車への深い理解があることは高く評価できる一方、自分が好きな車が必ずしも市場で売れるとは限らない。商品企画の経験から、自分の好みと市場ニーズを冷静に区別できるかどうかが鍵となるでしょう」

 ホンダとの再交渉は今後を考える上で合理的だと指摘する。

「統合が難しい海外の企業と組むよりもホンダと組んだ方が現実的だと私は思っています」

 その海外企業で取り沙汰されるのは、鴻海(ホンハイ)精密工業だ。元日産で、現在はホンハイでEV事業を担う関潤・最高戦略責任者(CSO)は日本経済新聞のインタビューで「特に日産とは親和性がある」とも語っているが……。

「この選択肢には日本政府の意向が大きく影響する可能性があります。シャープが2016年にホンハイに子会社化された際、ホンハイとシャープはエレクトロニクス分野で競合しており、相互依存の関係として成立できました。ただ、車についてはホンハイの経験値は高くない。すると、日産の技術やリソースが抜き取られる可能性があり、そのことを政府が好ましく思わない可能性がある。ただし、リスクの少ない範囲での協力、例えば三菱自動車がホンハイの子会社にEVの生産を委託したように、限定的な提携は考えられます」

 いずれの選択肢になるかは今後の展開次第となる。

「当面は日産が独力で立て直しを図る状況が続くでしょう。その成否によっては、第二幕として他社との提携や統合といった選択肢も出てくるかもしれません。ただし、それまでの間に日産がどれだけ自社の商品力を高められるかが重要です」

次ページ:プラットフォームを共有する形態を

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。