いまこそフジに学んでほしい…とにかく深い「萩本欽一」のヒット哲学 「番宣番組はやらない」「“面白いこと”と“面白そうなこと”は違う」の真意とは

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「笑いとは普通をずらすこと」

「土8戦争」で、「オレたちひょうきん族」を世に送り、フジテレビディレクターとして一時代を築いた三宅恵介氏も、もとは萩本のもとでバラエティ番組制作の基本を叩き込まれている。ある時、萩本からこう言われたという。

「三宅ちゃん、笑いって何だと思う?」

 萩本が言うには、「笑いとは普通をずらすこと」。笑いを作るには、まず普通ならどうするかを最初に考えて、それをずらしたり、逆のことをやったりすればいいのだという。

〈「例えば、女の人が襲われて、『助けて!』と言うのは普通。でも、『好き!』と言ったら、そこから笑いが生まれるでしょ」(略)「まずは普通を考える。そのためには普通の生活をしないとダメだよ。そして、そこからずらしていかないと」〉(三宅氏の著書『ひょうきんディレクター、三宅デタガリ恵介です』新潮社刊より)

 これと関連して、最近のタレントは「面白そうなこと」を「面白いこと」と勘違いしている傾向があるという。例えば、コーヒーを飲んでいる男がいる。「その人に何か面白いことをさせる企画を考えて」と言われ、「いきなり鼻からコーヒーを飲む」というアイデアを思い付いた。

〈それを大将(注・萩本のこと)に言うと、間違いなく「なんで? その男はどうして鼻からコーヒーを飲んでいるの?」としつこく聞いてきます。そこに理屈や必然性がないと、それはヘンな現象であって、「面白そうなこと」でしかないんです〉(同)

「鼻からコーヒーを飲む」というのは「オチ」。本当に「面白いこと」とは「オチ」ではなく、なぜ鼻からコーヒーを飲むのかという理由(フリ)があり、それを見て当たり前のように平気な顔をしている人のリアクション(ウケ)で成立するのだという。

〈テレビでそれを伝えるには、鼻からコーヒーを飲んでいる人をずっと映すのではなく、その様子を見ている人のリアクション(ウケ)や、会場収録の場合であれば、笑ったり、ヘンな顔をして見入っているお客さんの表情(これもある種のウケ)を流すのです。これは、大将が今でも言う、「ウケの顔を撮れ!」という、バラエティの基本的演出手法(フリ→オチ→ウケ)の一つなのです。最近はフリもウケもなく、オチ(現象)だけで笑いを取ろうとする番組が目立ちます〉(同)

 欽ちゃん番組といえば、ストレートに下ネタを扱わないことでも知られるが、「欽ドン」でこんな場面があった。「母と子の会話」のコーナーに当時、人気絶頂だった山口百恵(66)が出演した。子ども役の山口の問いに、母親役の萩本が応じる。

「お母ちゃん、なぜトウモロコシには毛が生えているの?」

「きっと大人なんだろうね」

〈これ、よく考えると下ネタなんですけど、この時のカット割りで大切なのは「オチ」を言った大将のアップで終わるのではなく、百恵ちゃんの「どう反応していいか分からない」という表情や仕草を撮るのです。ネタそのものよりも(そのネタの)ウケで笑いを伝えていくのです〉(同)

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