ブスいじり、セクハラが当たり前だった平成期の音楽番組たち 松本人志、中居正広、石橋貴明…当時のMCが相次いで告発された因果
中居正広氏の性暴力問題を巡り、第三者委員会の報告書で指摘された「セクハラ事案」の当事者であることが報じられた石橋貴明(63)。松本人志、中居正広氏に続き、石橋貴明――告発されたタレントたちがみな、平成期の音楽番組MCだったことは何の因果なのか。ライターの冨士海ネコ氏が分析する。
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【独占写真】「中居くん、やせた?」 変装姿で友人に会いに行く中居正広氏
テレビっ子としてちょっと悲しい。相次ぐスターたちのスキャンダルに、石橋貴明さんも名を連ねることになってしまった。フジテレビ黄金期の立役者であり、港浩一前社長とはじっこんの仲。そして「楽しくなければテレビじゃない」の礎を築いた芸能人の一人。とんねるずのヤンチャさと悪ノリは、わたしも含めて当時の若者に強烈な印象を残した。「ねるとん紅鯨団」「とんねるずのみなさんのおかげです」(いずれもフジテレビ系)で見せる強引で乱暴なイジリ芸や内輪ノリを、心酔して見ていた視聴者は少なくないはずだ。
といっても、タカさんとノリさんの悪ノリ具合は、ややテイストが異なるように思う。ノリさんはどちらかといえば小学生男子のような奔放さとえげつなさが持ち味だが、タカさんは体育会系にありがちなマッチョイズムなノリを感じさせた。「タカさんチェック!」ではないが、ジャッジするのは立場が上の俺、という傲慢な感覚。男性の後輩や自分より売れていない相手には高圧的で、女性のルックスで態度を変える。それはあくまでキャラであり、実際のところは誰に対しても腰が低く礼儀正しい人だという話も聞くが、少なくともテレビの中のタカさんは、後輩とブスには強く当たる人に見えていたのではないか。
ただ、20年以上前のテレビ文化を、今の常識で裁き一方的に批判するのはやや酷にも思う。テレビではコワモテで売っていたとしても「実は常識人である」ということが求められるようになったのは平成後期以降だろう。それまでは、私生活含めて型破りであることこそスターの証しであり、容貌や演技やたたずまいが一般人からかけ離れていればいるほど「芸能人」たりえていたからだ。
けれども、素顔もお利口であるように見せなければいけないという流れを作ったのもまた、タカさんたちの存在だったといえるのではないだろうか。歌手や俳優といったバラエティーの枠外で活動する芸能人を招き、素の自分という体でトークをするフォーマット。そしてその場のノリについてこられるかどうかで芸能人としての優劣を判断する目線は、とんねるずやダウンタウンの番組で頻繁に見られたからである。
松ちゃん、中居さん、タカさん……平成期の音楽トークバラエティー番組を支えたMC陣の失墜
松本人志さん、中居正広さん、タカさん。ここ数年で女性へのセクハラや性加害疑惑が報じられた三人の名前を見て、平成期の音楽トークバラエティー番組が思い浮かんだ。ダウンタウンの「HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP」(フジテレビ系)や、タカさんと中居さんによる「うたばん」(TBS)である。音楽を披露する時間よりトーク時間の方が長いゲストも多く、そこではMCからの無茶ブリにいかに対応できるかが問われていた。西川貴教さんや及川光博さんのように、「HEY!HEY!HEY!」で大ブレイクしたアーティストも多い。PUFFYは後の冠番組名まで付けてもらっていたし、手料理を持ち込む女性アーティストの姿も見られた。この番組で浜田さんに頭をはたかれると売れる、というゲン担ぎのようなものがあったようで、自ら頭を差し出す歌手にうんざりした顔をしていた浜ちゃんのことも覚えている。
「うたばん」でも、女性アーティストは特に、タカさんに気に入られるかどうかが肝だった。最も有名なのはモーニング娘。での序列で、安倍なつみさんや後藤真希さんといったセンターポジションの美少女にはデレデレするタカさんが、保田圭さんや飯田圭織さんのことはイジられ担当として邪険に扱っていたのを見た人は多いだろう。暴走するタカさんを抑える役割を意識していた中居さんも、止めるよりも流れに乗る方が「おいしい」と踏んだのか、保田さんイジリは「うたばん」の恒例行事と化していった。
タカさんの美人好きは「うたばん」に限らず、「食わず嫌い王」企画でも顕著だった。男女での対決なら、女性の隣に座るのは必ずタカさん。番宣で来た旬の女優陣に体をすり寄せ、隙あらば接触を試みる様子は持ちネタとなっていた。2020年にABEMAで配信された番組で、みちょぱこと池田美優さんに触る様子が、セクハラではないかと炎上したこともある。
体を触られたり、変なあだ名を付けられたりしても、ニコニコとやり過ごす。それがタカさんたちがMCの番組に招かれた歌手や俳優たちの不文律であり、売れる秘訣(ひけつ)でもあった。不機嫌になったり泣いたりして、「ノリが悪いなこいつ」と思われたら最後。随所に挟まれるスタッフの笑い声の大きさは、そのままその出演者の価値に直結していた。
感じの良さや運動神経、料理の上手さ、食べ方が上品かどうかまで、白日のもとにさらされた芸能人たち。芸能スキルだけでなく、人としてもバランスが取れた常識人かどうかも人気タレントの尺度と決定付けたのが、令和に告発されたMCたちの番組というのは何とも皮肉なものである。
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