「わかる人だけ、わかればいい」 実力派「真空ジェシカ」が貫く“非・王道”の漫才美学

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昨年は決勝3位

 年末に放送される漫才の祭典「M-1グランプリ」は若手芸人の登竜門である。そのレベルは年々上がり続けていて、参加者もどんどん増えている。昨年はついに出場者数が1万組を突破した。その中で決勝に進めるのはわずか10組しかいない。優勝するのはもちろん難しいことだが、決勝に進むだけでも並大抵のことではない。

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 そんな中で、真空ジェシカは昨年の「M-1」で決勝3位という結果を残し、4年連続の決勝進出という偉業を成し遂げた。これは今のハイレベルな「M-1」においてとてつもない大記録である。

 しかし、その立派な戦績とは裏腹に、真空ジェシカには実力派漫才師らしい貫禄のようなものは全く備わっていない。決勝の舞台でも「アンジェラ・アキが巨大なピアノを弾きながら歌う」というぶっとんだ設定の漫才を堂々とやっていたし、バラエティ番組に出るとボケ担当の川北茂澄は場の空気に関係なくマイペースにボケを連発して、共演者を困らせることが多い。

 川北自身が自らのことを「ニセ漫才師」と呼んでいる。日常的に数多くの舞台に立って漫才の腕を磨いている吉本興業所属の漫才師と違って、プロダクション人力舎に所属する彼らは、そのような正統派漫才師としての生き方をすることができない。だから、「M-1」に出ることで、その権威を借りて世間に漫才師であると思わせなければいけないのだという。

 彼らの漫才の中では、川北がややわかりづらいボケを放って、ツッコミ担当のガクが種明かしをするような一言を添えて笑いを生み出していくことが多い。つまり、彼らは意図的に「わかりづらいボケ」を入れている。そうすることで川北の不気味な存在感が際立ち、見る人を「(そのボケの意味を)わかりたい」という気持ちにさせる。

 川北は、特定の世代や文化圏の人にしか伝わらないような間口の狭いボケを放つことも多い。漫才ではツッコミのガクがそこに説明を添えてフォローすることができるのだが、バラエティ番組では誰もついていけずに空回りしてしまうことも多い。

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