電子コミック絶好調の「漫画業界」で深刻さを増す“アシスタント不足”…引き止め工作で「ブランド品のバッグをプレゼント」する漫画家も
コンテンツビジネスの規模は約3兆円
日本のコンテンツビジネスの規模は約3兆円ともいわれる。そういったコンテンツの供給源になっているのが漫画である。集英社、講談社、小学館などの大手出版社を筆頭に、最近ではIT系企業やゲーム会社までもが漫画の制作に乗り出している。紙の漫画雑誌が部数を大きく減らす一方で、電子書籍は絶好調であり、大手出版社は軒並み最高益を叩き出している。現代の日本は、空前の漫画戦国時代といえるだろう。
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そうしたなか、漫画家を悩ませているのが、漫画制作を手伝う“アシスタント”の人材難である。アシスタントは漫画の背景を描いたり、ベタを塗ったり、スクリーントーンを貼ったりするだけでなく、時には資料集めや、家事手伝いまで行うことがある。少なくとも、アシスタントがいなければ、週刊連載のようなハードなスケジュールをこなすのは不可能である。
そんなアシスタントがなぜ不足しているのか。大手出版社の編集者がこう打ち明ける。
「ここ数年で、とにかく漫画の制作本数が増えたことが要因だと思います。大手はもちろん、IT系などの新規参入組も漫画を作り始めているので、漫画家がとにかく増えているのです。具体的なデータこそありませんが、漫画家の人数は過去最多ではないでしょうか。漫画家が増えればその分だけアシスタントも必要になるわけですから、アシスタント不足に陥るのは当然だと思います」
作画が緻密になっている
有名漫画雑誌で連載する漫画家もこう打ち明ける。
「漫画が電子で見られるようになってから、作画コストが急激に上がりました。外国人漫画家も参入してきているため、人物もリアルで、背景もより緻密になっている。全体のレベルが底上げされているので、1枚上げるのに本当に手間がかかるんです。フリーで使える素材などをうまく活用している漫画家もいますが、私はしっかりと世界観を作りたいと思っているので、ありきたりの素材を使いたくないのです」
ちなみに、最近何かと話題になっている生成AIは「まったく使い物にならない」という。生成AIが望み通りの背景をボタン一つで出してくれたり、自動でベタやトーンの処理をしてくれるならアシスタント代わりになるはずだが、そのレベルにはまったく達していないという。「当面、人がアシスタントをやる状態が続くと思う」と、先の漫画家は予測し、こうも話す。
「ちなみに、大手の出版社だと編集者がアシスタントを探してくれることが一般的ですが、IT系の企業だと編集者に人脈もなく、そもそも社内にそうした文化がないため、漫画家がマッチングサイトやSNSなどを使って自分で探す必要がある。これは結構負担なんですよ。専門学校時代の友人などを頼る漫画家もいますが、そういった繋がりがないままデビューした新人だと、そもそもアシスタントに仕事を頼む方法もわからないまま仕事を始めるケースもあるようです」
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