異例のキャリアを歩む「元ヤクルトの左キラー」久古健太郎 大手コンサル勤務を経て「デジタル野球」に取り組む理由

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データは大切だが、駆け引きや心理は測れない

 一方、昨年放送された「情熱大陸」(TBS系)では、イチロー氏が近年急速に進むデータ野球の発展への警鐘と、感性の大切さを説く場面が放送され、さまざまな議論を呼んだ。

「確かにイチローさんのように卓越した技術を持っていて、データを見るだけでそれを的確に体現できる選手は、もしかしたら『面白くないな』と感じてしまうかもしれません。ですが、それが出来るのはごく一部のトップの選手に限られていて、多くの選手にとっては難しいものだと感じています。なので、これからトップを目指そうとする選手の皆さんが、データを見ながら自身の課題に向き合うことはとても有意義だと思いますし、自身のパフォーマンスの大幅な改善にも繋がるのではないかと感じています」

 その上で、久古氏はこう続ける。

「ただ、投手と打者の駆け引きや選手の心理など、絶対に数字では測れない部分もあると思うので、データを使いながらも、勝負の楽しさやスポーツをする醍醐味も忘れずにプレーしてほしいと思っています」

 かくいう久古氏も、現役時代は度々ピンチの場面でマウンドに上がり、データを交えながら勝負の醍醐味を堪能してきた選手だった。

絶対にランナーを返さない

「イニングの途中でマウンドに上がると、初球に何を投げるか結構悩むんですよ。そんな時には、登板の前に見た対戦打者の打撃データを参考にしながら、相手が見逃す可能性が高い球種や空振りの多い球種を選ぶようにしていました。例えば、鳥谷敬(当時、阪神)さんや阿部慎之助さん(現巨人監督)のような強打者はチャンスの際に初球から甘いボールが来ることが少ないため、データ上では意外と初球の見逃しが多い傾向があったので敢えて初球に甘めのボールを投げていました。このようにデータを参考にしつつ、とにかく自分のベストを尽くすとに集中しながら『絶対にランナーを返さない』という気持ちと責任感を持ってマウンドに上がっていました」

 ルーキー時代から左のワンポイントを主戦場に登板を重ねた久古氏は、2015年にはヤクルトのセ・リーグ制覇に貢献したが……。その後は持病の影響もあって徐々に登板数を減らし、1軍登板0に終わった2018年に自由契約を言い渡されることに。

「現役続行を願う気持ちはありつつ、もしかすると最後の登板になるかもしれない試合なので、応援してくれた皆さんや家族に自分の勇姿を見せたい」という強い気持ちでトライアウトに臨んだものの、吉報は届かず。チームのために腕を振り続けてきた左腕はプロ入り8年目、32歳の秋に引退を決断することとなった。

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