「日本代表戦が地上波で見られない!」 疑問の声相次ぐ「DAZN」が値上げを続ける意外な理由
海外ファンを増やした功績
これではファンからの不満が絶えないのもやむなしか。とはいえDAZN側としても顧客満足度は軽視できないはず。なぜ、かようなビジネスを続けるのだろうか。
「ストリーミング業界の中で、DAZNは過渡期に置かれていると思います」
そう同社の事業を読み解くのは、ITジャーナリストの本田雅一氏だ。
「16年にサービスを開始したDAZNは、スポーツファンというコミュニティを相手に、配信の形で様々なサービスを提供する事業の成長性にいち早く気づき、急成長を遂げました。特に、マネタイズがうまくいっていなかったJリーグにおいて、各チームの地元コミュニティから払われたサブスク料が、放映権料としてJリーグ、ひいては各チームに還元される仕組みをつくったのは大きかった。17年に高額の放映契約を結んだことで、経営不振に陥っていたJリーグが救われた過去があります」
さらに、
「DAZNはグローバルに事業を行っているので、アジア圏を中心に、海外でJリーグに興味を持つ人が増えたという功績もあります。入会のきっかけは欧州リーグだとしても、そこからJリーグに興味をもってもらうという意味で、DAZNは海外ファンを増やすことに一役買ったといえるでしょう。従来の『放送』の形では成し得なかったことで、ネット配信だからこそ、地域の垣根を取り払えたわけです」
値上げせざるを得ない事情
しかし、こうして各コンテンツのファン層を拡大してきたことが、仇となりつつあるのだという。
「Jリーグが世界で見られるようになったのと同時に、日本人も海外サッカーを見たり、他のスポーツを見てみたりという循環が生じています。こうして各ジャンルの市場価値が高まっていくにつれて、放映権料も上昇していった。さらに、サブスク型の事業モデルの場合、会員獲得につながる独占配信でないとあまり意味がないこともあり、より高額な契約が必要に。DAZNが高めたスポーツの市場価値が今、大きな放映権料として返ってきているのです」
そこに比例してサービスの加入者も増えていけば問題はないのだが、当然限界はある。かくしてサービス自体の値上げを行わざるを得なかったというわけだ。
「同社が公開している財務レポートによれば、2022年度時点の会員数は全世界で1500万人。じわじわと増加はしているようですが、放映権料の高騰ぶりを考えると、十分な成長が続いているとはいえないでしょう。実際、会員獲得は頭打ちを見込んでいるようで、無料配信による広告収入モデルを拡大したり、『DAZN Bet』というベッティング事業を始めたりと、収益構造の多角化を図っています。私もDAZNが配信しているコンテンツである『F1』ファンの1人ですが、こういう背景を考えると、値上げや会員向けのCM放映も、仕方がないことだと思っています」
日本代表戦は独占配信のままでいいのか
ならば、「日本代表戦」が独占配信される現状も仕方がないことなのか。サッカー振興への影響を指摘する声もあるが、
「それはJFA(日本サッカー協会)が考えるべきことで、契約の仕方の問題だと思いますよ。民間企業としては人気のある代表戦を独占配信したいと考えるのはふつうですし、契約の範囲内で事業を行っているに過ぎません。プロ野球だって、有料放送との契約があっても、国民が注目する試合は地上波で放送されたりしていますよね。たしかに代表戦が地上波で見られない影響はあると思いますが、DAZNだけを悪者扱いするのは違う気がします。あるいは、同社の無料配信モデルが事業としてうまくいけば、非会員でも代表戦が見られるようになる可能性もあるとは思います」
サブスクリプションサービスも群雄割拠の時代である。岐路に立たされるDAZNの向かう先は、果たして……。
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