在日中国人が集うSNSで“格安販売”されている「チケット」とは 日本で金儲けする「闇のカラクリ」

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 推しグッズに限定品、発売前から人気の新商品――需要が供給を上回ると見れば、品目を問わず大量に買い占めては高額で売り飛ばす。それが「転売ヤー」だ。現代社会の新たな病理となりつつある彼らは、いったいどれぐらいの利益を得ているのか……。

 転売品の中には、違法行為によって入手されたものも混じっている。奥窪優木氏が転売ヤーたちに密着した『転売ヤー 闇の経済学』では、その手口がリアルに描かれている。(引用はすべて同書より)【前後編の前編/後編を読む

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クレジットカード不正利用が資金源に

 世に出回る転売品は基本的に、定価より高値で取引される。定価に利鞘を載せて転売しなければビジネスとして意味がない。行列に並んだり抽選に応募したりしてくれる協力者への報酬も支払わなければならないのだから当たり前だ。

 しかし、中には例外も存在する。

「新幹線 打折票」

 在日中国人が集うWeChat(ウィーチャット)上のコミュニティには、そんな文言が多数投稿されている。打折票とは割引チケットという意味。つまり新幹線の乗車券の格安販売をうたっているのだ。

 その割引率は、大黒屋などの金券ショップには到底真似のできないレベルである。ある投稿者は、東京─新大阪の新幹線のチケットを8000円で売り出していた。同区間の自由席特急券と乗車券の価格の合計は1万3870円であることを考えると、4割以上も安い計算となる。また、別の投稿者による「どの区間も40~60%で販売」という書き込みもあった。

 こうした新幹線チケットの破格販売は、筆者が知る限り、中国のSNS上で5年以上前から行われていた。

 これだけ安ければ、中国人でなくても利用したくなる人も多いだろう。しかし、なぜ彼らは、これほど安価に新幹線乗車券を提供できるのだろうか。そのカラクリについては、長らくある憶測が飛び交っていた。「他人のクレジットカードを不正利用することによって購入された乗車券ではないか」というものだ。

335人分のクレジットカード情報を悪用

 その憶測が“事実認定”されたのは、2023年11月のことである。大阪府警が、新幹線の乗車券を不正入手したとして中国籍の男ら5人を窃盗などの疑いで逮捕、送検した事件がきっかけだ。男らは同年2月下旬から4月の間に、335人分の他人のクレジットカード情報を悪用し、新幹線の乗車券や特急券など、およそ1万4000枚を取得していたという。

 これらのクレジットカード情報は、偽サイトに誘導して言葉巧みに個人情報をだまし取るフィッシング詐欺の手口で不正に取得されたものだった。

 当時の報道では、発券されたチケットの一部は、大阪市内の金券ショップで換金していたとされている。しかし、買取金額が1万円以上になる場合は、身分証による本人確認が行われることがほとんどであることを踏まえると、ネット上で転売されたものも少なくないと考えられる。

 この事件について、不正購入が行われた予約サイトのひとつ、「e5489(イーゴヨヤク)」を運営するJR西日本に見解を尋ねたところ、対策の難しさを滲ませた。

「弊社としてはインターネット上のオークション等への流通・出品経路等、その実態を把握しかねており、また、乗車券類は無記名で使用開始前は譲渡性のある有価証券のため、転売行為自体の差し止めが難しい状況。ただし、明らかに違法性が高いと思われるものは、警察と連携し、発売駅の特定や、発売履歴の調査等の対策をとっています」

 前述の不正購入事件が報じられると、中国のSNSでの新幹線チケットの破格転売は一時的に鳴りをひそめた。転売業者の多くが及び腰になったとも考えられる。しかし、その後ほとぼりが冷めると、すぐに彼らの営業活動は復活している。

破格販売業者とSNSで接触してみると

 2023年12月、筆者は新幹線乗車券の破格販売を持ち掛けるウィーチャットの投稿のひとつに、購入希望者を装って中国語でメッセージを送ってみた。すると15分とたたないうちに返信が来た。

「ウィーチャットペイかPayPayで決済すれば、駅での切符の受け取りに必要なQRコードとパスワードを24時間以内に送信する。何枚必要か?」

 相手の歓心を買うため、継続的な取引をする意向をちらつかせることにした。

「うちの会社では複数の社員が頻繁に大阪に出張に行くので、毎月20枚ほど用意してもらいたい」

 これに「東京─新大阪は9000円だ。まとめて購入するなら割引も可能」と相手が乗ってきたところで、さらに尋ねてみた。

「価格がずいぶん安いが、どのようにして手に入れたチケットなのか?」

 しかし相手の口は堅かった。

「それは企業秘密だ。特別なルートを使って合法的に手に入れたものだ」

 続いて、「ちゃんと使えるのか?」「使用する上の特別な制約やリスクはないのか」と質問してみた。これには、「正規の自由席乗車券と同じ。発券時には1ヶ月先が乗車日として指定されてあるが、それ以前の乗車日に1回変更可能」と返答があった。

 筆者が相手の正体に近づくため、対面での商談を提案してみると、「我々の拠点は中国なので、会うことはできない」と突っぱねられた。

 筆者はその後、他の新幹線チケット転売ヤーたちともメッセージのやり取りをしてみたが、内容はほぼ同じで、対面の場に誘い出すことは叶わなかった。

 商品の購入から転売相手への引き渡しまで、すべてオンラインで完了することができる新幹線チケット転売は、フィッシング詐欺の現金化手段としてはたしかにうってつけだ。そもそも転売グループらの拠点が実際に中国国内にあるとすれば、彼らにとって逮捕のリスクはほとんどない。チケット購入の際にJRのサイトに残されたIPアドレスを日本の警察が辿ろうとしても、そこには国境という大きな壁が立ちはだかるはずだ。

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 この記事の後編【「日本人のメルペイから抜き取ったカネで――」コンビニで60万円分を“爆買い” 中国で売りさばく「転売ヤー」の手口】では、闇バイトたちに買わせたある商品を高額で転売する手口の詳細を報じている。
 
『転売ヤー 闇の経済学』より一部抜粋・再編集。

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