東條英機を見て感じた人情のつれなさ、日本人の便所に来たパール判事…速記者たちが語った「東京裁判」秘話

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真相は藪の中のゴシップも

 続いて、A級戦犯を弁護した米国人の弁護人についても印象を述べている。

〈この間、日本で問題を起した弁護人がありましたね。女の人をだましたという――ブルックス。それからスミスというのがいたね。あれは裁判長に弁護人の資格を剥奪された。〉

「ブルックス」とは、元首相・陸軍大将の小磯国昭を担当したアルフレッド・ブルックスを指すとみられる。だが、なんとも興味深い「女をだました」事実については不明だ。

 約30年前、米国で眠っていた東京裁判に関する機密文書を初めて研究、調査し、『東京裁判への道』(講談社)などの著書もある立教大学の粟屋憲太郎名誉教授に尋ねると、「その話は聞いたととがない。当時、出回っていたゴシップの類で話題になったのではないか」とのことだ。報道統制下だっただけに、真相は藪の中である。

「裁く側」に対する複雑な心情

 一方の「スミス」とは、デービッド・スミス弁護士のことであり、豪州のウェッブ裁判長と対立して法廷から追放される憂き目に遭った人物として有名だ。ここで別の出席者たちがスミス、さらにウェッブについて語っている。

〈よく裁判長に食つてかかりましたね。〉

〈退廷するときの態度は、実にりつぱでしたよ。それに比べて、あの裁判長はどうです。〉

〈濠州自体、排日感情の盛んなところだが、その代表的人物という感じを受けたね。豪州では、五番目か六番目のえらい判事だというがね。結局濠州から裁判長を持つて来たというのは、アメリカの占領政策の一つですね。〉

「中立公正」が鉄則の速記者ではあるが、やはり「裁く側」には概して好印象を抱いていないようである。だからなのかどうか、有名な「被告全員無罪」を主張する意見書を出したインドのラーダ・ビノード・パール判事については、気さくな印象を抱いたようだ。

〈ただあのときの、インドの判事のパル氏ね。あれはいつ見ても、ニコニコしていたね。日本無罪論なんかも書いたし、実に堂々としていた。〉

〈あそこの二階の便所は、外人専用で日本人使用禁止なんだ。ところが彼はそとに行かずに、日本人の便所にやつて来て、用をたしていた。〉

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