小学生が医大へ向け猛勉強、世帯月収の4割が教育費…出生率0.72人という「超少子化」を招いた韓国の「私教育問題」

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 4年に一度行われる韓国の総選挙が10日に投開票となった。引き続き、野党が過半数を維持することとなり、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は苦しい政権運営を迫られることに。その韓国で深刻な社会問題と化しているのが「超少子化」である。このままでは国家そのものが消滅すると指摘される中、その原因とされるのが過熱する教育問題だ。韓国で何が起きているのか。(金敬哲/ジャーナリスト)

世界でも類を見ない韓国の超少子化現象

 韓国統計庁が発表した2023年の韓国の合計出生率(暫定集計)は0.72人、出生児数は初めて23万人台に落ちこんだ。直近の23年第4四半期(10月-12月)だけを見ると、韓国の出生率は0.65人で、軍事侵攻されているウクライナの0.7人よりも低い数字となっている。世界で類例のない韓国の超少子化現象に対して、海外ですら「国家消滅の危険性」を指摘しているが、韓国政府としては解決策が見いだせていない状況だ。

 韓国の少子化問題は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権から本格的に顕在化した。02年、1年間の出生児数が初めて50万人台を割り込むと、少子化現象が社会問題として台頭し、盧武鉉政権は、05年に「少子高齢化基本法」を制定。06年に大統領直属の「少子高齢化対策委員会」を設置して政策立案に力を入れた。以後、23年まで韓国の歴代政府は計380兆ウォンの予算をかけて各種対策を立ててきたものの、出生率は下降線を辿るばかり。06年に1.13人だった合計出生率は、18年にはついに1.0人以下へ下がり、昨年は0.72人まで下がった。このような流れだと、今年の韓国の出生率は0.68人に下がり、来年は0.65人にまで下がるといわれている。さらに、22年基準で5167万人の韓国の人口は、2033年に初めて5000万人台を割った後、2072年には3017万人に達するという悲観的な展望まで出ている。

 世界でも類を見ない韓国の超少子化現象は、国際的な関心事となっている。すでに2006年の国連の人口フォーラムで「韓国は少子化で地球上から消える最初の国家」と名指しした世界的な人口学者、オックスフォード大学のデービッド・コールマン名誉教授は、23年に訪韓した席で「韓国は2750年に国家消滅の危険にさらされる」と再度警告した。米ニューヨークタイムズ誌は、「韓国の人口減少速度が過去にペストが蔓延していた中世ヨーロッパより速い」と分析した。

子供が親を恨むのではないか

 ペストによる人口減少に比肩する自国の超少子化現象について、韓国の多くの専門家は、過度な「競争圧力」によって若い世代が未来に対する不安を感じるのが最大の原因だと指摘する。就職難による雇用不安や高い住宅価格上昇による住まいへの不安、そして子育てに寛容でない企業文化、行き過ぎた教育費などが挙げられるだろう。

 中でも、一般国民は子供の教育への負担感を強く感じていることが分かった。最近、保健福祉部は子供を産まないと決めた青年世代の夫婦を対象に「ファミリーストーミング(ファミリ+ブレーンストーミング)」という意見聴衆を実施しているが、この場で教育への懸念が集中的に語られている。

 会議に出席した若い夫婦の口からは、「1歳の誕生日パーティーで子供が歩いているかどうかから始まって、どこの学校に通っているかとか、職場はどうなったかとか、長期間にわたってほかの子と比較し続ける。その無限競争に親として参戦する自信がない」「入試戦争が不安でしょうがない」「わが子が学校でめげないようにと、無理してでも、学校への送り迎えのための外車を買う友人もたくさんいる」「他の人のように子供に投資できないようなら、子供が親を恨むのではないかと心配だ」など、容赦のない本音が飛び出した。

 ソウル市の江南区大峙洞はこのような「わが子を成功へと導かなければならない」という韓国の親たちの強迫観念が集結した場所といっていいだろう。韓国では学校などで実施する「公教育」に対し、私設の塾などによる教育を「私教育」と呼ぶ。この大峙洞は3.53平方キロメートルほどの狭い面積の中に実に1000以上の塾が密集する塾街として有名だ。

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