伏線だらけ?朝ドラ「虎に翼」の新しさ “エキストラの女子”、松ケンの“甘味”の意味とは

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 NHKの連続テレビ小説「虎に翼」がスタートして1週間。主演の伊藤沙莉の演技など見どころが満載で、初週5回の放送では、これまでの朝ドラと「ひと味違う」と評判がいい。

 上智大学文学部新聞学科教授で、テレビ制作を実践する授業も受け持つジャーナリスト水島宏明氏も、従来の朝ドラにない「斬新さ」を指摘する。それはずばり「伏線」の多さ――。第1週を見て感じた見どころをまとめてもらった。

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さりげなく登場する女性たちの姿まで“伏線”?

 本作は、日本で初めての女性の弁護士で、後に裁判官になる実在の女性をモデルにしている。主人公の猪爪寅子を演じるのは、コメディもシリアスもよしの演技派俳優・伊藤沙莉。女性の地位が民法上「結婚すると無能力者」と扱われた時代において、「女のくせに生意気」「わきまえなさい」などと見下す男たちに抗い自分の意見を口にする寅子が、法律家の道を目指す物語だ。

 Xでは「伏線」だらけの展開に興奮するという声が出始めている。確かにこのドラマ、NHKの朝ドラにしては珍しいほど、伏線(ほのめかし)が細かく散りばめられている。

 たとえば第1話の冒頭、主人公の寅子は河川敷で新聞紙を広げて読んでいる。公布されたばかりの日本国憲法の記事で、第14条の「すべて国民は法の下に平等」に彼女は目を止める。その背中から万感の思いが伝わってくる。寅子だけではない。橋の下で暮らす家族も多かった終戦直後、初老の女性たちも食い入るようにその記事を読んだ。米兵相手に身体を売る女性、割烹着を着た女性、道でふかし芋を売る女性、職場に向かう女性……。戦争の傷跡が色濃く残る街を、寅子が法務省に向かって歩く途中の背景として登場する女性たちはみな、前を向いている。穴空きズボンを穿き、石の上に腰掛ける女の子も、熱心に新聞に目を落とす。新時代への期待と意欲を漂わせる描写だった。

 こうした女性の姿は、毎回のタイトルバックのアニメにも描かれている。こんなふうに、名もない役の女性たちが伏線として描写されている。

通行人のエキストラまで芝居で“伏線”をつくっている?

 朝ドラでは普通、背景に登場する街の通行人らに演技らしい演技をさせない。背景の人が目立ってはいけない、さりげなく演じてもらうのが定番だ。ところが『虎に翼』では、エキストラと呼ばれる演技者たち、なかでも女性があえて目立つような芝居をしている。

 第3話では、寅子を見合い結婚させることに熱心な母親の猪爪はる(石田ゆり子)が、親戚の不幸をうけてしばらく香川県の丸亀に里帰りする。母の不在の間に、寅子は父の直言(岡部たかし)に法律を学ぶために大学の女子部に進学したいと思いを打ち明け、入学願書を出しに行く。父と娘は帰りに甘味処で今後を語り合うが、その途中の神田の路上の光景は、伏線だらけだった。「あんこう鍋」の店の前では、肩掛けカバンを下げた短パン姿の男子児童2人が、一人で歩く女子児童に向かって何か叫び、走り去っていく。嫌なことでも言われたのか、その女子は急に重い足どりになった。季節は夏である。

 第5話でも、季節が冬に変わって、再び神田の「あんこう鍋」店の前の光景が出てきた。風呂敷を持った和服の若い女性が思いつめるように一瞬立ち止まって歩く。その脇を肩掛けカバンの男子児童2人が、前回も登場した女子と立ち話をした後に走り去っていく。男子にいじめられたのか、一人になった女子は手で涙をぬぐう仕草をする。その脇を寅子が通り過ぎ、母親と待ち合わせた甘味処まで歩く。

 女子児童は男子2人にいじめられていたのだろうか。このシーンは、女性が男性の横暴に悩まされるという暗喩なのか。街の雑踏で通行人にわざわざ芝居させるのは、脚本家や演出家が考えた一種の伏線なのだろう。第1週ではどうやら伏線らしいという点に留まり、回収されるところまでは見届けることはできなかった、だがこのドラマは、今後あちこちに伏線を散りばめていくものと思われる。

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