「百害あって一利なし」インド・モディ首相はなぜヒンズー国家政策をゴリ押しするのか

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「世界最大の民主主義国家」に危機か?

 インドは来月から政治の季節を迎える。選挙管理委員会は3月16日「下院の総選挙を4月19日から6月1日にかけて7回に分けて実施し、6月4日に一斉開票する」と発表した。

 今回登録を済ませた有権者数は2019年より6%増加の9億6880万人で、世界最多を更新する予定だ。各種世論調査によれば、3期目を目指すモディ首相が率いる与党・インド人民党(BJP)が過半数の議席を獲得する勢いだという。

「世界最大の民主主義国家」と呼ばれるインドだが、モディ政権下でその雲行きがあやしくなってきた。総選挙を前に、当局による野党側への捜査や摘発が相次いでいる。

 3月21日、デリー首都圏政府首相のケジリワル氏が酒類販売の規制解除に関する汚職容疑で逮捕された。ケジリワル氏はモディ氏を「独裁者」などと激しく非難してきており、同氏が率いる庶民党は「逮捕は不当だ」として最高裁判所に申し立てを行っている。

 最大野党「国民会議派」も厳しい税務調査を受けている。ガンジー元総裁は3月21日「我々の銀行口座がすべて凍結されたため、選挙集会などを実施することができない。インドには今、民主主義はない」とモディ政権を痛烈に批判した。

ヒンズー国家化への道を進むモディ首相

 それ以上に深刻なのは、インドの政治が「世俗主義」から逸脱し始めていることだ。

 インドの憲法には「政教分離」の世俗主義が明記されているが、モディ首相はこれを無視する形でヒンズー国家化への道を突き進んでいる。

 モディ政権は3月11日、隣国から逃れてきた人たちに市民権を与える市民権法の改正を施行したが、同法の対象からイスラム教徒を除外したことから、「イスラム教徒への差別を助長する」と激しい批判が起きている。

 インドでは今後もヒンズー国家化が進むのは確実な情勢だが、このことが肝心の経済にとっても大きなマイナスとなる可能性が指摘されている(3月5日付日本経済新聞)。

 インド経済を牽引するスタートアップ企業やIT(情報技術)を研究する大学などは南部に集中しているが、これらの地域ではBJPは政治的な支持を得ていない。裕福な南部の有権者は英語やタミル語などの少数言語を奨励する地方政党を支持し、世俗主義を堅持する立場を取ってきたからだ。

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