「実力派プロデューサーも“一本取られた”」 コンプラを逆手に取る「不適切にもほどがある!」がテレビ業界を変える理由

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令和流コンプラへの違和感

 そうこの小川市郎、ただ下品な言葉を連呼しているオッサンではない。毎回、物語の終盤では、令和流のコンプラに対し、昭和の“常識”から違和感を表明する場面が出てくるのである。

 例えば、第1回。

 後輩に「期待しているから頑張って」と声をかけ、パワハラだと同僚に糾弾されている会社員が出てくる。それを横で聞いていた小川はこう突っ込む。

「頑張れって言われて会社休んじゃう部下が同情されてさあ、頑張れって言った彼が責められるって、なんか間違ってないかい?」

 それに対して、何も言わずに寄り添えばよかったと反論する同僚社員。

 すると小川は、

「気持ちわり! 何だよ寄り添うって。ムツゴロウかよ」

「そんなんだから時給上がんねえし、景気悪いんじゃねえの。挙句の果てにロボットに仕事取られてさあ。ロボットはミスしても心折れねえもんな!」

 つまり、令和風“正論”を振りかざす現代人を、オジサンが昭和ゆえの“極論”で振り回す――。令和のコンプラ社会に一石を投じているように見えるのだ。

 この構図で「セクハラの基準」「不倫は許されないのか」など毎回ホットなテーマを論じている上に、

「それも、昭和と令和、どちらが良いという話ではなく、どちらも一長一短ある、見ている方が考えて、という表現になっている」(元日本テレビ解説委員で、上智大学文学部新聞学科教授の水島宏明氏)

現場へのメッセージ

「今の番組制作へのアンチテーゼを発信してくれているようで期待して見てます」

 とは、元テレビ東京プロデューサーで、桜美林大学芸術文化学群ビジュアル・アーツ専修教授の田淵俊彦氏。

「小川はテレビ局で仕事をしていますから、テレビ局員の姿がよく描かれます。例えば、情報番組の放送の最中、ずっとSNSを見ているプロデューサーが出てきますが、あの手のプロデューサーは本当にいるんです。オンエアチェックの時、テレビの画面を見ず、スマホにかじりついてSNSなどの視聴者の書き込みをずっと見ている……。ヤバいこと言われてないかなって心配で一喜一憂しているわけですが、やめたらいいのになと思っていました。コンプライアンスを無視するのはダメですが、視聴者からすれば、それを気にし過ぎて面白くもないものを見せられるのも辛い。そういう現実をクドカンさんは知っているんでしょうね」

 例えば、今は地上波でほとんど見られなくなった喫煙シーンがこのドラマで連発されることは先に述べたが、

「しかし実際、非喫煙者対象のある意識調査では、タバコを吸わない人でも自分の目の前ならいざ知らず、テレビの画面越しなら許容できるという人が、7割以上を占めました。それよりタバコを排除することで面白さが失われることの方が嫌ということでしょうが、現実には考えることをやめ、喫煙シーンは無条件でNGと思い込んでいるプロデューサーはたくさんいる。このドラマはそこをもう一度、各々がきちんと考えて判断しましょうと問いかけているのではないでしょうか」(同)

 硬直化した現場を見直そうというメッセージに思える、と言うのである。

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