【大変革の選抜大会】木製バットの方が飛ぶ、値段が高すぎる…「低反発バット」の導入で現場から出ている声

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とにかく飛ばない「新バット」

 3月18日に開幕した第96回選抜高校野球大会(以下=センバツ)は、高校野球史における「大変革の大会」として、今後、長く語り継がれることになるかもしれない。今大会から低反発で打球速度が遅くなる新基準のバットが導入されたためだ。

「大会前に注目を集めていたのは、能登半島沖地震で練習場を失った星稜(石川県)と、日本航空石川(同)の2校でした。系列校のグラウンドを借りるなどして練習に明け暮れる姿に、普段は高校野球に関心のない人たちからもエールが送られていました」(民放TV局スポーツ部員)

 しかし出場校には、昨年11月の明治神宮大会を終えて「出場候補」となった時点から抱えていた難題もあった。

「北北海道代表で、1回戦で大阪桐蔭に敗れた北海高校は、一足早く新基準の金属バットで昨秋の神宮大会に臨みました。学校の判断で試験的に先駆けて使ってみたのですが、まあ『飛ばない』のひと言に尽きます。外野手の頭を越えると思った打球が凡フライになっていましたから」(アマチュアスポーツ担当記者)

 新バットは、最大直径が従来よりも3ミリ短い64ミリに縮小された。バットの重さ「900グラム以上の重量制限」は変わっていないが、打球を捉えた際、手がしびれない=バットが歪まない、「バットの芯」と呼ばれる箇所の外部を、従来の3ミリから1ミリ厚くすることになった。この「1ミリ」が金属バットの反発力を大きく抑え込む。見た目はそれほど変わらないが、打球の平均速度、初速がともに3.6パーセント減少され、一般的には飛距離が5メートル減少するという。

 プロ野球のスカウトもこう続ける。

「昨年8月、中学硬式野球のジャイアンツカップでも試験的に新・金属バットが導入されました。一昨年の同大会総得点は320でしたが、昨年は165。ほぼ半減したことになります。柵越えのホームランも8本から1本に減りました」

 今春のセンバツも「打線のパワーダウン」は免れなかった。大会4日目、12試合を終えた時点で出たホームランは、僅か1本。昨春の大会総本塁打数は12本、一昨年は18本が飛び出した。その本塁打数を「1試合平均」で計算すると、23年は「1試合当たり0.34本」。22年は「0.58本」。今春は大会4日目の時点で「0.08本」となる。大会初日の第一試合がいきなり延長戦にもつれ込んだように、どの学校も攻撃の決め手に欠いているようだ。

 その稀少な1本を打ったのは、プロ注目のスラッガー、愛知県・豊川高のモイセエフ・ニキータ(2年/左投左打)。打球はライナーでライトスタンドに突き刺さったが、昨秋の神宮大会で出たホームランは高い放物線を描く、滞空時間の長い打球だった。ニキータは新バットの影響は「ない」と言い切ったが、チームは初戦で敗退してしまった。

投手を守るため

 金属バットが採用された74年夏の大会以降、高校野球は「打者有利」となった。筋トレやウエイトトレーニングも定着した近年では「打高投低」の傾向がさらに強くなった。

「高野連が低反発バットの導入を決めたきっかけは、19年夏の甲子園大会です。打球が投手の顔面を直撃し、頬骨を骨折する事故が起きてしまいました。昨夏、佐々木麟太郎(18=米スタンフォード大学)のセンター返しの打球速度は200キロを超えていました。高校生でもパンチのある選手の打球から投手を守ることを最優先に考えたのです」(前出・アマチュアスポーツ担当記者)

 高野連は昨年11月、加盟校のなかで「欲しい」という要望があった3814校に、新バット2本ずつを都道府県の高野連を通じて配布し、打席に立つ球児たちの違和感をなくそうとした。しかし、関東圏の私立高校の指導者によれば、新バットは従来品よりも「1本当たり約1万円も高い」そうで、十分な部費が調達できず、頭を抱えている公立校もあるという。

「大手メーカーのバットだと、1本当たり4万円台です。従来のバットが使えなくなるので、ある程度の本数を早く揃えなければなりませんが、限られた学校予算を他の部活動と分け合うので、野球部だけを優遇してもらうわけにはいきません」(公立校指導者)

 新バットの影響はホームランの激減、学校運営だけではない。出場校の守備面でもこんな悲鳴が聞かれた。打球の距離感やゴロの勢いも変わってしまったというのである。

 これまで高校野球の打球音といえば、「カキーン」という乾いた金属音だったが、今大会では反響音が小さくなったのか、「カコーン」と聞こえる。選手には「キュイーン」と聞こえることもあるそうだ。外野手に求められる要素は俊足(守備範囲)と強肩だが、「耳」も大切だという。外野へ飛んでくる打球を見極める際、打球音で球の勢いを判断することもあるからだ。だが、新バットは芯で打球を捉えてもそうでなくても、音は同じに聞こえるという。

 今大会では外野手の頭上を越えると思われた打球が意外に伸びなかったり、内野手が定位置で捕球できると判断したゴロ打球が失速したりするなどし、守備面にも影響を与えていた。大会4日目を終了した時点で、すでに26個の失策が記録されている。3日目(20日)の第3試合では外野手による失策が2つもあった。外野手が飛球の落下地点を判断するのは「眼」と「耳」。強豪・大阪桐蔭の西谷浩一監督は組み合わせ抽選前の囲み会見で、

「メーカーによって、微妙に打球音が違うので、そのあたり(旧基準のバット)のことは一概に言えませんが」

 と、語った。

「4日目に登場した青森山田では、何人かの球児たちが新バットではなく、木製バットを使っていました。木製のほうが飛ぶとの感想は、出場校以外の指導者や選手からも聞かれました」(前出・アマチュアスポーツ担当記者)

 出場校も対策を講じて大会に臨んでいる。たとえば、千葉県の中央学院校ではシートノックの際にも走者を置き、三塁ランナーには、バッターがゴロ打球を打つと同時に本塁突入の「ゴロ・ゴー」をさせていた。「低反発=僅少差ゲーム」となることを想定し、打球判断と本塁バックホームのタッチプレーの精度を高めるためだ。

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