【ウクライナ戦争】日本人記者が見たマリウポリの現実 残った市民がロシア支配下で生きるそれぞれの理由

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 ウクライナ南東部の港湾都市マリウポリ。ウクライナ兵がアゾフスタリ製鉄所で数週間にわたって籠城戦 を続けたことを覚えている人も多いだろう。最終的に彼らは投降、町は廃墟と化し、2022年5月にロシアの支配下に移った。ロシアによるウクライナ侵攻から2年が過ぎた今、町は大きな変化に直面している。【江谷入也/ジャーナリスト】

あちこちに寿司店やラーメン屋

 1月下旬にマリウポリを訪れたドイツ公共放送「ZDF」の取材班は、ロシアがいかに膨大な資金を投じ、町を再建しているかをリポートした。「戦争を両サイドから報じることが重要」と主張するZDFに対しウクライナ外務省は、政府の許可を得ずリポートを行ったとして反発している。

 ZDFとほぼ同じタイミングでマリウポリを訪れた。最初に目につくのは統一感の無さである。東日本大震災の復興事業のように区画ごとに整理されるのではなく、建物ごとに責任者が異なるため、完璧に修復された家の隣に瓦礫があったりする。チェチェン人やウズベク人の労働者が数多く行き交っている。

 スーパーなどの商業施設は問題なく営業し、商品も充実しているので、その中にいる分には戦争の気配は全く感じない。特に肉類は新鮮で美味しそうだ。マリウポリ近郊から仕入れているのだという。数は少ないもののカフェやレストランも営業している。

 以前はギリシャ料理店が多かったが、今では日本料理店が追い抜いたという。あちこちに寿司店があり、マグロやサーモンなど決して質は悪くない。ラーメンを頼むとうどんスープのようなものが出てきたが、それはそれで美味しかった。食事を楽しんで店を出ると崩れかけた建物が目に入り、現実を再認識する。

政権移行による手続きの山と混乱

 80代の男性は、もう4カ月も年金を受け取っていない。事務所に電話をしても埒が開かないとこぼす。これまでウクライナから年金を受け取ってきたが、これからはロシアから受け取ることになる。移行作業はスムーズとは言い難い。

 ある女性は、製鉄所で何十年も勤務してきたのに、その勤務年数が部分的にしか年金に反映されていない、なぜだかわからないと話す。別の女性は逆に、ロシアになってから年金額が増えたので満足していると話した。

 しかし、年金が増えたと話した女性は、損壊した自宅を修理するための補償金をまだもらっていない。補償金を受け取るには、担当者が出向いて被害状況をチェックする仕組みになっている。しかし、女性の家は補償金の申請が却下された。女性は、いつ担当者が来たのか、なぜ損壊なしと判断されたのかわからないと言う。クレームを入れる書類を作るにも、素人では難しく、法律家に有料で頼む必要がある。この女性の場合はボランティアでやってくれる弁護士を見つけた。これはレアケースだ。

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