診療報酬改定に専門家は「効果があるとは思えない」 “薄利多売化”で陥る異常な医療実態を解説

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 2年に一度のペースで見直される診療報酬。今年の6月から施行される改定内容が、14日に決定した。政府の狙いは「医療従事者の賃上げ」と「医療費抑制」の両軸のようだが、果たして今回の改定で、それらの効果は出るのだろうか。

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 賃上げなどを理由に診療報酬の増額を求める厚労省と、なんとか医療費の増額を抑えたい財務省。こうした板挟みの中で、昨年末に政府が決定した大方針は、医療従事者の人件費に回る「本体部分」は0.88%の引き上げ、「薬価」は1%程度の引き下げというものになった。簡単に言うと、岸田首相が掲げる「賃上げ」を重視したものの、膨張する医療費を抑えるために薬価を引き下げることで、全体としてはマイナスになる形をとったということである。

 この方針をもとに、具体的な中身が、厚労省の諮問機関で決められた。

「医療従事者の賃上げのために、初診料や再診料などが引き上げられることになりました。一方、医療費削減のために、糖尿病や高血圧などの報酬ルールが調整されたり、繰り返し使える『リフィル処方箋』の発行を促す加算が拡充されたりしました」(全国紙記者)

診療回数を増やすだけ

 ただ、高度な医療を享受し、健康を維持したい我々の関心は、もっぱら「本当に医療費の抑制に繋がるのか」、そして「これまで通りの医療が今後も受けられるのか」ということに尽きるだろう。しかし、

「この改訂に効果があるとは、到底思えません」

 そう切り出すのは、医療経済ジャーナリストで、医師としての顔も持つ森田洋之氏だ。

「たしかに、医療費削減に繋がる面があるのは事実です。何より大きいのは、糖尿病や高血圧、脂質異常症が『特定疾患管理料』という指定から外されることになったことでしょうか。代わりの指定も用意はされているものの、なかなかハードルが高いようなので、ふつうに考えたら、開業医らの収入は大きく減少することが予想されます。これらの疾患の薬をもらいに来るだけの患者さんはものすごく多くて、特に内科の収入の大半を支えている存在ですからね」

 ただし現実は、政府の想定とは異なる方向に行くだろうと、森田氏は話す。

「病院側としても死活問題ですから、診療費が安くなったのなら、理由をつけて診療の回数を増やすことで、減収分を補おうとするだけなのが実態です。患者にとっては、訪問の頻度は基本的に医師に従うしかないですし、ましてどんなに受診したとしても、その多くは保険で賄われるため、患者側に『無駄な受診は控えよう』というコスト意識が働きづらいのです。私が在宅医療に行くと、タンスから山のように湿布や薬が出てくるなんてこともよくあります」

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