能登半島地震で発生した停電の元凶…先進国で唯一の“電柱だらけ”が被害の拡大を招いた

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 大地震の被害を受けた能登半島の復旧は、まだ途に就いたばかりで、地震発生から1カ月以上を経ても、痛ましい風景はほとんど変わっていないようだ。そんななか、停電に関しては、立ち入りが困難な一部の地域を除いておおむね復旧したのは、救いだといえる。しかし、電気に関して大きな問題が露呈したのも事実である。

 現代においては、人間は水がなければ生きられないように、電気がなければ生きられない。いわば電気は「命綱」で、極寒の季節であるだけに「命綱」の重みは増している。それだけに、停電から復旧した地域が多いことをよろこびたいが、一時は最大4万500戸が停電しており、その後の復旧も早かったとはいえない。日本経済新聞の調査では、地震発生から5日目の停電戸数を最大停電戸数で割った停電率が、熊本地震がほぼゼロで、東日本大震災が6%だったのに対し、能登半島地震では40%と突出していたという。

 北陸電力の調査によると、この地震では電柱の被害が非常に多かった。1200本近くが傾斜し、約300本が折損。電線が断線や混線したのは約800カ所におよんだという。立ち入りが難しい場所も多く、復旧にかなりの時間がかかり、一部の地域ではなおその状況が続いている。

 能登半島は周囲を海で囲まれているうえ、山間地が多い。このため各地が細い山道でつながれていたところに、地震で道路が寸断され、地滑りが発生し、さらには降雪にも見舞われて、電源車等の派遣が容易ではなかった。

 だが、そもそもの話として、送電システムの脆弱さが指摘できる。それに、これは日本に特徴的な状況なのである。

地中化されていれば電線の被害は軽微だった

 発電所でつくられた電力は高圧送電線をとおして住宅地まで運ばれ、変電所で低圧に変換されてから、配電線を通して各戸 に届けられる。その配電線は、日本では電柱で支えられている地域が圧倒的に多い。今回の地震では、前述のように、この電柱が甚大な被害を受けたのだが、電線の地中化が進んでいれば、被害はかなり防げたかもしれないのである。

 電線が地中化されていれば、単純な話、電柱が倒れて停電する心配がない。たとえば、液状化しても持ちこたえるようで、東日本大震災で千葉県浦安市が液状化したときも、通電には影響がなかったという。能登半島地震では、道路が大きくずれたり、地割れしたりしたので、地中化が進んでいても一部は破損した可能性も否定はできないが、電柱に頼っているよりも軽微な被害で済んだことは疑いない。

 じつは、日本では2016年に無電柱化推進法が成立し、電力会社や自治体が無電柱化に向けて取り組むことが責務とされているのだが、その後も電柱は毎年、数万単位で増え続けている。だいいち、この法律の存在を知っている人がどれだけいるのだろうか。

 無電柱化が進まない最大の理由は、コストがかかることである。能登の復旧にしても、ふたたび電柱を建てるだけなら、1キロメートルあたりの復旧費は2000~3000万円ほどで済むのに対し、電線を地中に埋設するとなると、同じ距離で4億~5億円かかるという。多くの原発が停止されているうえ、電力の自由化などで電力会社の経営は厳しく、地中化が先延ばしされているのが実情だという。

 しかし、そんなにコストがかかるなら無電柱化が進まないのは仕方ない、と考えるのは危険である。なぜなら、こんなに電柱だらけの国は、およそ先進国を自認している国のなかで日本だけだからだ。

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