常識の修正を拒否した松本人志、ダウンタウンに批判的だった横山やすし…「天才」2人の歩みは今になって重なる

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「常識」が時代と合わなくなったら

 半面、協調性の欠落は「天才」お笑い人の特性なのだろう。やすしさんは84年、久米宏氏(79)とレギュラーを務めていた日本テレビの生情報バラエティ「久米宏のTVスクランブル」(82年)への出演を無断でキャンセル。これが発端となり、やがては降板させられる。キャンセルはやすしさんによる番組への抗議だったとはいえ、こちらも協調性ゼロだ。

 やすしさんと松本は反目していたから不本意だろうが、「天才」の2人は似ている。やすしさんは同番組内で国会議員に対し「お前ら何を考えとんねん」などと暴言を吐き、これが番組側との確執の始まりとなり、出演キャンセルから降板に至った。

 松本は19年、フジ「ワイドナショー」(日曜午前10時)でアイドルグループNGT48メンバーの暴行被害告白問題を扱った際、指原莉乃(31)に向かって「お得意の体を使って何とかすれば」と発言。「悪質なセクハラ」と猛批判を浴びた。

 やすしさん、松本はほかにも両番組内での発言がいくつも問題視された。自分の思うままを口にしたのだろう。2人とそれぞれの常識が時代に合わなくなっていた。

常識を修正した大物芸人たち

 ただし、お笑い人の常識が時代とズレるのは珍しいことではない。萩本欽一(82)はお笑い界の良識人とされるが、60年代から70年代前半のコント55号時代には相方の故・坂上二郎さんをイビリ抜いた。松本のイビリ以上ではないか。観ていた人ならご記憶のはずだが、今では到底できない。いじめと非難されても仕方がない。

 しかし、萩本はイビリ芸が時代に合わなくなりつつあると気付き、70年代半ばから80年代半ばにかけては、老若男女が安心して観られる笑いの提供者に転じた。笑わせ方を修正した。

 ビートたけし(77)も変わらないように見えて実は修正している。80年代前半、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」や女性の外観の美醜などを題材にした毒ガスギャグを売り物の1つにしたが、かなり早くから口にしないようになった。時代と社会通念の変化も意識したはずである。

 やはり良識派のタモリ(78)は80年代には名古屋市を見下したり、さだまさし(71)の楽曲を小馬鹿にしたりするギャグをたびたび口にした。今なら相当な反感を買う。しかし、タモリは90年代に入る前にこれらの辛口ギャグを封印した。タモリもやはり修正したのである。

修正を拒否した松本

 一方で自分が納得することが第一だった松本は修正しなかった。むしろ積極的に修正を拒絶した。やすしさんも最後まで変わらなかった。

 これによって2人はそれぞれの時代とのズレが大きくなり、松本は支持が低下。やすしさんは淋しい晩年を迎えたと見る。テレビパーソンなら誰でも知るはずだが、松本のレギュラー番組は02年から人気が落ちていたのだ。

 やすしさんは市井の人とのトラブルや過度な飲酒によって自壊の道を辿った。松本は女性への性加害疑惑によって芸人生活に黄色信号が灯っている。

 もっとも、2人のお笑い界における大きな足跡は変わらない。それを消し去るのは歴史の改ざんだ。また、2人を望んだ大衆を否定することでもある。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。放送批評懇談会出版編集委員。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。

デイリー新潮編集部

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