京葉線のダイヤ改正で大騒動 通勤快速の廃止でJR東日本千葉支社と沿線自治体が対立

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JRの狙いは

 JR東日本千葉支社はダイヤ改正の目的を「通勤快速の利用者を平準化させること」と説明。市長が面談した千葉市のほか、千葉県もそう受け止めている。しかし、JR東日本千葉支社は、それ以外にも「各駅停車の運転本数を増やすことで、快速が停車しない駅の利便性を高めること」や「通勤快速や朝夕の快速がなくなることで通過待ちがなくなり、各駅停車の所要時間が短縮できる」という理由を挙げている。

 京葉線通勤快速廃止のニュースでは、利用者の平準化ばかりがクローズアップされている。これはJR東日本千葉支社がダイヤ改正をする理由の1番目に挙げていることや、神谷市長が報道陣に語っている内容が理由だろう。

 しかし、関係各所への取材を進めていると、むしろJR東日本千葉支社は2番目の「快速が停車しない駅の利便性を高めること」に軸足を置いていることが浮かび上がってくる。つまり、JR発足当時に推進していた通勤圏の拡大による長距離通勤客の取り込みという方針から近中距離の通勤客を着実に取り込むスタンスへと転換しているのだ。

 くわえて、特定の駅に偏在していた京葉線の沿線開発機運を均等化するという意図も見え隠れする。

 例えば、京葉線には2023年3月に幕張豊砂駅という新駅が開業した。新駅は海浜幕張駅と新習志野駅の間にあり、同駅は千葉県・千葉市・イオンモールが駅開設費用の大部分を負担している。

 同駅の誕生によって京葉線は駅数が増え、同時に通勤快速や快速が通過する駅が増えたわけだが、その一方でJR東日本千葉支社には特定の駅周辺だけが発展する事態からの転換を図る必要が生じた。

 筆者は幕張豊砂駅が開業した半年後に、同駅の利用状況や駅前開発の進捗状況を確かめるべく現地へと足を運んだ。そこで筆者が目にしたのは、駅前にバスロータリーが整備され、イオンモールという巨大な商業施設が目の前に立地していながらも、乗降客がまばらで駅前を歩いている人が少ないという寂しい状況だった。

 まだ新駅が開設されてから半年しか経過していないので、同駅が発展途上であることは仕方がない。

 開発余剰地が多く残されていることから今後に発展する可能性は十分にあるのだろうが、だからと言ってJR東日本千葉支社が幕張豊砂駅周辺の開発や活性化に何も手段を講じないわけにはいかない。京葉線のダイヤ改正は、同駅の開発や活性化を促進させるための一手段といえる。

 また、2000年代後半から東京圏では都心回帰の動きが強まったことも、JR東日本千葉支社が各駅停車を重視する流れに影響を与えている。都心回帰によって、京葉線の沿線で言えば新浦安駅などの利用者が増えており、隣駅の舞浜駅とともに発着回数を増やして利用客の利便性を高めたいとJR東日本が考えることは自然な成り行きだろう。

 そうした要因に加え、コロナ禍による利用者減、さらには今後に深刻化する人口減少が近距離の通勤客を重視する流れを決定づけ、それが今回のダイヤ改正へと結びついていく。

反発も想定していたはずなのに

 JR東日本千葉支社と沿線自治体の主張を聞くと、どちらの言い分にも一定の正当性を感じられるが、両者の主張は微妙に噛み合っていない。これでは、両者が時間をかけて話し合いをしても平行線をたどるだけだろう。

 そもそもダイヤ改正は、コンピューター化が進んだ現在も各所で調整が生じる複雑な作業でもある。その作業は単に列車の時刻や停車駅を決めるだけではなく、それに伴う車両や運転士・車掌の確保といった細かな部分で複雑な手配が多数発生する。

 これらの手配は、一朝一夕にはできない。車両が足りなければ増備しなければならないし、運転士や車掌の育成も必要になる。また、乗換駅で接続する路線との時間調整も必要になる。

 そうした事情から、鉄道各社は小規模なダイヤ改正でも準備を1~2年前から始める。大規模なダイヤ改正なら、5年以上の準備期間を要することもある。

 JR東日本千葉支社も、周到に準備を進めていたことだろう。当然ながら、沿線自治体の反発も想定していたはずだ。

 ただ、JR東日本千葉支社が準備段階で沿線自治体などにダイヤ改正の相談をしていなかったことは批判されても仕方がないかもしれない。

 例えば、千葉市は通勤快速を海浜幕張駅にも停車させて、各駅停車と乗り継げるようにする緩急接続という代替案を示していた。また、いきなり朝夕の全列車を各駅停車へと変更するのではなく、とりあえず快速を残すという選択もあったはずだ。

 とはいえ、沿線自治体が鉄道のダイヤ改正に対して関心が低かったことも事実だろう。これは千葉市だけに限った話ではないが、自治体は総じて鉄道ダイヤに関心が低い。そうした関心の低さが、今回の事態を招いた一因でもある。

 従来、ダイヤ改正は鉄道マニアしか注目することがない鉄道イベントで、世間の関心を集めるほどの話題にはならない。

 京葉線のダイヤ改正は、奇しくも鉄道ダイヤが私たちの生活に大きな影響を及ぼすということを認識させる一件になった。

小川裕夫/フリーランスライター

デイリー新潮編集部

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