「吉田輝星」の育成を“放棄”した日本ハム “スカウティングと育成”が機能していないという大問題

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現場の強い意向

 フリー・エージェント(FA)権を行使した選手の去就が決まり始め、佳境を迎えつつある今年のプロ野球の「ストーブリーグ」。そんな中で、ファンだけはなく、解説者も驚く“電撃トレード”が明らかになった。11月24日、日本ハムの吉田輝星と、オリックスの黒木優太による1対1の交換トレードが両球団から発表されたのだ。【西尾典文/野球ライター】

 これまでの通算成績を見ると、吉田は64試合の登板で3勝9敗5ホールド、防御率6.23、黒木は133試合の登板で10勝11敗3セーブ47ホールド、防御率4.37となっている。実績は、黒木が明らかに上である。

 だが、吉田は2018年にドラフト1位で入団しており、今年で22歳とまだまだ若く、高校時代の甲子園での華々しい活躍もあって、将来のエース候補として期待が高かった。そもそも高卒のドラフト1位選手が、この若さで移籍するというのが異例だ。吉田の“育成”を放棄してしまったと言っても過言ではない。一方、交換要員の黒木は、今年大きく成績(12試合1勝5敗、防御率6.58)を落としていることから、ファンの間では、今回のトレードに対する疑問の声も少なくない。

 トレードの理由として考えられるのが、現場の強い意向だ。就任2年目となった新庄剛志監督はシーズン前に「日本一しか目指さない」と宣言していたが、終わってみれば2年連続の最下位に沈んでいる。ただ、続投が決まった後の会見では、来年も同じような成績であればユニフォームを脱ぐ覚悟と話しており、来季、すぐに戦力となる選手の獲得を要望していた可能性は高い。

多くの「ドラフト上位指名組」が主力になれない

 このオフ、日本ハムは、オリックスをFAとなった左腕の山崎福也を獲得したものの、エースの上沢直之はメジャー挑戦を目指して退団見込みとなっており、そのマイナス分を埋めたに過ぎない。

 今年のドラフト会議では、支配下で指名した投手は、1位の細野晴希(東洋大)だけだった。ただ、細野は調子の波が大きく、即戦力ではなく“2年目以降の戦力”と見られている。こうした事情があって、将来のエース候補、吉田を放出し、即戦力となりうる黒木を獲得するトレードに踏み切ったと言えそうだ。

 しかしながら、今回のトレードやここ数年の日本ハムを見ていると、筆者は、チームの重要方針と言われている“スカウティングと育成”が機能していないのではないかと感じる。

 過去10年にドラフト1位、2位の上位指名で獲得した選手で、今シーズンチームの主力として十分な働きを見せたのは、加藤貴之(15年2位)、河野竜生(19年1位)、伊藤大海(20年1位)の3人しかいない。

 野手陣では、清宮幸太郎(17年1位)と野村佑希(18年2位)に開花の兆しがあり、下位で指名した万波中正(18年4位)がブレイクしたことは、プラス材料だ。とはいえ、ダルビッシュ有(04年1巡目)をはじめ、陽岱鋼(05年高校生ドラフト1巡目)や八木 智哉(05年希望枠)、吉川光夫(06年高校生ドラフト1巡目)、中田翔(07年高校生ドラフト1巡目)、大野奨太(08年1位)、西川遥輝(10年2位)、松本剛(11年2位)、大谷翔平(12年1位)らが主力となった2000年代前半から2010年代前半と比べると、“当たり”の選手が減っている。

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