「逃亡の報酬は1億4千万円」 カルロス・ゴーン逃亡劇からはや5年

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 早いものでカルロス・ゴーン日産自動車元会長が逮捕されてから5年がたつ。東京地検特捜部がゴーン元会長とグレッグ・ケリー元代表取締役を金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の容疑で逮捕したのは2018年11月19日だ。

 この一件では、改めてゴーンの巨額報酬が耳目を集めたが、それ以上にインパクトを与えたのが、その後の「逃亡劇」だった。

 逮捕から2年後、保釈中のゴーン被告は自身の雇った腕利きたちの手引きにより、極秘に日本から脱出。

 変装し、箱の中に身を隠し……という映画を連想させる手口には誰もが驚愕(きょうがく)し、司法当局は地団駄を踏んだのである。

 結果、ゴーンはルーツともいえるレバノンに身を寄せ、それ以降、日本は彼を国内で裁くことができないままである。

 皮肉なことに、彼を自由にしたことでがぜん注目された軍事コンサルタントのほうはアメリカで逮捕され、日本で裁きを受けることとなった。

 彼らは何者で、その後どうなったのか。

(「デイリー新潮」2020年06月05日の記事をもとに再構成したものです)

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腕利き軍人たちが立案

「世紀の逃亡劇」を巡っては、すでにトルコで7名の航空関係者が拘束されているが、今回逮捕された2人こそ、ゴーン被告の依頼を受けて作戦を遂行したキーマンだと見られている。

 2020年5月、米国の司法当局によりボストン近郊の自宅で逮捕されたのは、マイケル・テイラー容疑者と息子のピーター容疑者。この年1月、東京地検はこの親子に対して犯人隠避と入管難民法違反ほう助の容疑で、逮捕状を取っていたのだ。

 社会部記者が解説する。

「ゴーン被告の出国に際しては、息子のピーター容疑者が日本国内における事前準備を担ったとされています。19年の夏に、ゴーン被告と複数回面会して作戦を練り、逃亡当日のホテル予約なども行っています」

 片や父親のマイケル容疑者は、重要な移動手段となったプライベートジェットに同乗していた。

「パイロットは、関西空港を飛び立った後にマイケル容疑者から作戦の全容を明かされたと証言しています。その際、最後まで無事に送り届けないと命はない、と脅迫されたそうです」(同)

 脅し文句とはいえ、マイケル容疑者はかつて米陸軍の精鋭が集う「グリーンベレー」に所属。数々の戦地で修羅場を潜り抜けてきた元職業軍人だ。退役後は、民間軍事会社を設立して代表に就任、アフガンなどで兵士の養成にあたっていた。

 軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏によれば、

「民間軍事会社はPMCと呼ばれ、主に紛争地での要人警護や施設や輸送の警備、地元政府軍の訓練などを行います。業務自体は命懸けの仕事で実際に死ぬこともある。それに比べればゴーンの逃亡ほう助はリスクが少ない。命の危険はなく、捕まっても重罪ではない。そんな、日本でのミッションはおいしい仕事だったでしょう。アフガンの米軍縮小など、業界自体も仕事が減少していますから」

 日米は犯罪人の引き渡し条約を締結しており、今回の逮捕も日本政府が強く要請を行った末に実現したという。
 
 当人たちは、ゴーンのまねをしたか、「日本では正当な裁判を受けられない」うんぬんと主張して抵抗したらしいが、そんな主張が受け入れられるはずもない。レバノンとは異なり、アメリカはこの二人の身柄をスムーズに日本に移した。
 
 2021年、東京地裁で父親マイケルは懲役2年、息子ピーターに1年8カ月の実刑判決が下される。被告、検察ともに控訴しなかったため刑は確定。そして翌年11月には日米両国が加盟する受刑者移送条約に基づいて、残りの刑期をアメリカで務めることとなって、本国に戻っていった。

 ゴーンが親子にこの件で送った金額は1億4千万円にものぼるとされている。自分たちは逮捕されたとはいえ、ゴーンが自由を謳歌しているのだから辣腕ぶりを世界にアピールできたと見ることも可能だろう。

デイリー新潮編集部

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