「アルコール」と「肝臓」の新常識 「良いお酒飲み」になる「減酒」術

ドクター新潮 ライフ

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 わかっちゃいるけど……。嗜(たしな)む限りにおいては人生最良の友であっても、程度が過ぎると体と人生を破壊してしまうアルコール。いかにしてお酒と上手に付き合うべきなのか。肝臓の専門医が「断酒」ではなく、一生お酒を楽しむための「減酒」術を解説する。【尾形 哲/肝臓外科医】

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 久しぶりにとっておきのボルドーのワインを開けようと夜を楽しみにする中年女性。今日の晩酌は大好きなあの純米大吟醸でと夕食を待つ高齢男性。今夜はドイツの珍しい地ビールで乾杯することにしようと仲間との飲み会に備える若者――。

 日本肝臓学会専門医である私の立場から、大きな声で飲酒を推奨することはできませんが、どうせ、いや、せっかくアルコールを口にするのであれば、こういった飲み方は悪くはないと思います。

 しかし、酒に飲まれてしまう人がいるように、いつの間にか「良いお酒飲み」から「悪いお酒飲み」へと変貌し、それを自覚できないケースがままあります。皆さんはいま、果たして良いお酒飲みなのか、はたまた悪いお酒飲みなのか……。

酔うこと自体が目的化している危険性

 それを識別するためのひとつの基準をお示ししたいと思います。

 キリンのビールを飲んでほろ酔い気分となり、それが空くとアサヒのものを飲み、さらにその商品が切れたらサッポロのビールを胃に流し込む。ビールではなく、スーパーのプライベートブランドの安い缶酎ハイでも構わない。それで満足だから。

 もしあなたが、このような「どんなお酒であっても文句を言わない、物わかりの良いお酒飲み」だとしたら、逆にそれは「悪いお酒飲み」になってしまっているシグナルかもしれません。なぜなら、銘柄に拘(こだわ)らなくなったお酒飲みは、お酒を味わうのではなく酔うこと自体が目的化している危険性が高いからです。そこにはもはや、冒頭で紹介したような、食事の友でもあるお酒を味わいながら嗜み、食卓を、ひいては人生を豊かにできている「良いお酒飲み」の姿はありません。

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