東山魁夷記念館で「市vs相続人」のバトル! 作品の展示の許諾が得られず「どうしたらいいか困っている」

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 千葉県市川市は画家の東山魁夷氏が30代の頃から亡くなるまで住んだ土地だ。自宅があった場所の隣には「市川市東山魁夷記念館」が立っている。同館は、作品だけでなく、生前に愛用していた品なども展示することによって、東山画伯の人間像を浮き上がらせている。ところが、その記念館での展示が難しくなっているという。

 6月23日、市川市議会で石原よしのり議員が質問に立った。昨年、記念館が半年以上も休館していたのに、市民に説明がなかった理由を聞いたのだ。

 これに対して田中甲市長の答弁は、

〈(東山魁夷氏の妻の)すみ夫人の御逝去を受けて、著作権や東山魁夷邸の権利をめぐって裁判になるなどした中で、残念ではありますが市川市は東山画伯の著作権の許諾を得られない現状がございます〉

 そのため、展示内容の変更に手間取ってしまったというわけだ。詳細を石原議員が解説する。

「記念館は、2005年にすみ夫人から遺品などの寄贈を受けて開設しました。その後、自宅の土地・建物を寄付する申し出も受けるのですが、16年に夫人が亡くなると、7人の相続人の名義に移されたのです」

市役所は「どうしたらいいか…」

 この不動産の所有権を巡っては相続人と市とで裁判になるのだが、東京高裁で市が勝訴している。

「しかし、画伯の作品の一部については相続人の方々に著作権があるので、展示には許諾を得る必要がある。市川市としては、不動産の所有権を争う相続人から展示の許諾を得るというのは難しいというわけです」(同)

 説明しておくと、著作物には所有権とは別に著作権があり、現物を譲り受けたからといって勝手にポスターなどを作って商用利用してはならない。本人が亡くなれば著作権は相続人に引き継がれる。だから、東山画伯が物した原稿などを展示するには相続人から許諾を得なくてはいけない。もっとも絵画などの美術品については、所有者が公開することは構わないとされている。

 そこで市役所に聞くと、

「正直、どうしたらいいか困っているところです。市川市が所有している東山画伯の絵を展示するという手もあるのですが、これも簡単ではありません。展覧会には図録が必要で、そこにも著作権が発生してしまうのです」(担当者)

 画伯もあの世で心を痛めているに違いない。

週刊新潮 2023年9月7日号掲載

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