テレ朝「何曜日に生まれたの」は戦略ミスか 絶不調の夏ドラマ5本、それぞれの敗因

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 森七菜(21)主演のフジテレビ「真夏のシンデレラ」(月曜午後9時)が、民放夏ドラマの“爆死”作品だと指摘されている。もっとも、個人全体視聴率を見ると、合格ラインとされている3%はなんとかクリア。それより厳しい戦いをしている作品はどれか(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区、8月7~13日)。

「何曜日に生まれたの」が躓いた理由

 8月7日から13日までに放送されたプライム帯(午後7時~同11時)の民放夏ドラマの中で、4歳以上がどれくらい観たかを表す個人全体視聴率が最も低かった作品はどれか。それは13日のテレビ朝日系(制作・朝日放送)「何曜日に生まれたの」(日曜午後10時)。1.4%(世帯2.6%)とかなり低い。

 3年半前からテレビ界、スポンサーの指標が個人視聴率なのは知られている通り。ドラマの合格ラインは午後9時台なら個人全体が3%以上、同10時台は同3%弱が一般的なので、この数字は遠く及ばない。

 どうして午後9時台と午後10時台でボーダーラインが違うかというと、PUT(総個人視聴率=テレビを観ている人の割合)に差があるから。午後9時台は約30%、同10時台は約25%である。

 概ね2%以上で合格とされているコア視聴率(13~49歳の個人視聴率)を見ると、「何曜日に生まれたの」は0.8%。こちらも最下位でやはり苦しい。10代のT層(13~19歳)、若い女性のF1層(20~34歳)も1%割れだ。

 躓きの原因は何だろう。まず、放送枠が4月に新設されたばかりで、認知度が低いことが影響しているのは間違いない。また局側は事前に、TBS「高校教師」(1993年、2003年)などで知られる野島伸司氏(59)のオリジナル脚本であることをしきりにPRしていたが、この戦略が功を奏さなかったと見る。

 1990年代から2018年までの野島氏は毎年のように個性的な作品を書いていたので、観る側は新作の放送が迫るたび、「どんなドラマになるのか」と注目した。しかし、野島氏はその後の5年間、地上波から遠ざかっていた。

 視聴者側の野島氏作品の記憶は薄らぎ、期待感も沸きにくかったのではないか。もっと出演陣や作品内容をPRすべきだったように思う。

 ストーリーは1990年代の野島氏作品の色を強く感じさせる。主人公が不幸を背負っている点である。これが苦手な人もいるはず。まして重たい気分になりたくない日曜の夜だ。今回はある悲劇をきっかけに10年の引きこもり生活を送っていた黒目すい(飯豊まりえ・25)が主人公になっている。

 人気作家の公文竜炎(溝端淳平・34)は黒目を題材に恋愛漫画の原作を書こうとする。作画を担当するのは黒目の父親・丈治(陣内孝則・65)。カネに困っていた黒目親子はこの話を引き受けた。だが、それまでは買い物に行くのもしんどそうだったすいが、題材になることを呑んだのはちょっと不思議だった。

日テレとフジの水10対決は相討ち

 赤楚衛二(29)主演の日本テレビ「こっち向いてよ向井くん」(水曜午後10時)の9日放送分は個人全体2.6%(世帯4.8%)、コア2.4%。

 同じ時間帯で放送されている杉野遥亮(27)主演のフジ「ばらかもん」の同日分は個人全体2.8%(世帯4.7%)、コア1.5%。ほぼ互角。とはいえ、両作品とも低水準。ここまで数字が落ち込む作品ではないのに。相討ちと見るのが妥当だろう。同じ時間帯でドラマが共存共栄するのは難しい。

 両作品はともに良いと思えるところ、少し首を傾げる部分がある。だから、どちらかが圧倒的に強くならず、数字に大きな差が付かないのだろう。

「こっち向いてよ向井くん」は10年間にわたって交際相手のいなかった33歳の男性サラリーマンが、恋を求めて奮闘する物語。青春末期の男性の心象風景も細かに表そうとしている。この世代の男性にフォーカスを合わせた作品は少なく、これは面白い。

 マイナス材料はストーリーがパターン化していること。女性との出会いと再会、別れを繰り返すため、新しい人が現れても「どうせ、また別れる」と思ってしまう。

「ばらかもん」は夏休みの課題図書のような清く美しい作品。幅の狭い性格の青年書道家が、東京から長崎県五島列島に移り住み、地域住民と触れ合ううち、人間的に成長する。観ていて清々しい。親子、あるいは3世代で観られる。

 一方で少し疑問に思うところもある。住む土地を変えたくらいで人間は大きく変わるものだろうか。

 8月7日放送のフジ「真夏のシンデレラ」は個人全体3.0%(世帯5.2%)、コア2.5%。ひとまず合格点超え。もっとも、酷評される理由も分かる。現実離れしたエピソードが目立ちすぎる。それもあってか、視聴者の数が圧倒的に多い50代以上があまり観ていない。若者以外の多くの人には魅力のない作品なのだろう。

「真夏のシンデレラ」の影響を受けていると思われるのが、この作品の次に放送されている同局系(制作・関西テレビ)「転職の魔王様」(月曜午後10時)。午後9時台、同10時台と作品が2階建てになっている場合、前の作品の視聴者が後の作品に流れてくる。視聴者の傾向が重なったほうが後の作品は有利だ。

 ところが、「真夏のシンデレラ」が極端なまでに若者向けなのに対し、「転職の魔王様」はミドル層以上の視聴者のほうが合っているように思える。凄腕の転職アドバイザー・来栖嵐(成田凌・29)が、依頼人の転職をサポートするだけでなく、その人の人生の立て直しも行うという内容だからだ。このため、視聴者は流れにくいだろう。

 それもあってか、「転職の魔王様」の8月7日放送は個人全体2.9%(世帯5.4%)、コア1.4%に留まった。作品は面白いから、視聴率と釣り合っていない。

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