東京藝大出身、29歳の浪曲師・天中軒すみれが語る浪曲の魅力 「語りながら涙ぐんだことも」

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「浪花節(なにわぶし)」とも呼ばれる浪曲は、明治期から昭和初頭にかけて国民的な人気を博した。全盛期には「旅行けば~」でおなじみの「次郎長伝」で知られる広沢虎造をはじめ、およそ3千人もの浪曲師や三味線を担当する曲師が活躍した。

「一時は伝統芸能界の“絶滅危惧種”とも揶揄されましたが、最近は活気をとり戻しているんですよ」

 演芸担当記者が解説する。

「現役の浪曲師は東西合わせて100人ほど。最近は若い世代の浪曲師が増えつつあり、定期公演会場の浅草・木馬亭には20~30代の客も増えてきました」

 中でも注目を集めているのが、東京藝術大学出身の天中軒(てんちゅうけん)すみれだ。大学時代は楽理科で東西音楽の歴史などを学び、長唄や義太夫、太鼓などあらゆる邦楽を経験したという。本人いわく、

「中高は音楽科のある一貫校で、その時に聴いた長野・諏訪大社の御柱(おんばしら)祭における木遣り唄に衝撃を受けまして。まるで脳天から発するような古老の声。西洋クラシックの発声とはまったく異なる、日本伝来の声の表現を考えるきっかけになりました。それで藝大に進んだんです」

「語りながら涙ぐんだことも」

 大学卒業後、平成30年4月に同じ女性浪曲師の天中軒雲月(うんげつ・69)に入門。今年1月に独り立ちを意味する「年明(ねんあ)け披露」を行った。

「自分がアクトするのが性に合っているので、いずれは声で表現する芸の継承者になろうと決めていました。そんな時、師匠の浪曲に出会ったんです」

 浪曲は三味線の伴奏と独特の節とたんか(せりふと地の文)で物語が進む。

「師匠は周囲を圧倒するエネルギーに溢れていて、訳も分からず奔流に巻き込まれる心地よさを感じました。浪曲の語り手は、立ったまま全身を使って声を出します。振り絞るように出す声には迫力があり、聴けば心がスカッとします。これこそ私がやりたいと願う、熱い声の表現だと思いました」

 入門後は発声からたたき込まれ、物語の登場人物になり切るよう厳しく求められた。そのかいあって、先の年明け披露でも演じた「関孫六伝 恒助丸の由来」を、好きな演目として挙げる。

「刀鍛冶・関孫六のもとで修業する恒次郎が、5年目のとある日に弟子入りの理由を師匠に明かす。師弟は力を合わせて名刀恒助丸を打ち上げるという話ですが、5年という節目を迎えた恒次郎と自分の姿が重なって。披露の前夜は自宅で稽古するうちに感情が高ぶり過ぎ、語りながら涙ぐんだことも」

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