【佐藤蛾次郎の生き方】亡くなった後、友人たちが出した秀逸な談話と手作りカレーの関係

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「おう源公!」「兄貴、お帰りなさい!」――映画「男はつらいよ」で渥美清(1928~1996)演じる主人公の寅さんが葛飾柴又に帰ってくると、威勢よく出迎える帝釈天の寺男・源公といえばこの人、佐藤蛾次郎さん(1944~2022)です。日本の新聞社で唯一「大衆文化担当」の肩書を持つ朝日新聞編集委員の小泉信一さんが、様々なジャンルで活躍した人たちの人生の幕引きを前に抱いた諦念、無常観を探る連載「メメント・モリな人たち」。昨年暮れ、突然の訃報が届いた蛾次郎さんの人生に迫ります。

秀逸だった故人への談話

 有名人、中でも誰もが知っている有名人が亡くなると、メディアは必ずと言っていいほど知人や友人らの談話を求める。要は「どんな人だったか?」ということである。だが、あまりにも故人をほめちぎるものもあり、鼻持ちならない時もある。

 しみじみと故人の人柄や足跡が偲ばれる秀逸な談話というのは、あるようで実は少ない。ましてや、ユーモアを含んだ談話だったらなおさらのことである。

 その点、今回の談話は素晴らしかった。

 昨年暮れ、東京・世田谷の自宅浴槽で亡くなった俳優・佐藤蛾次郎である。ご存じ、国民的人気映画「男はつらいよ」シリーズ(1969~2019)の常連。映画の舞台となった葛飾柴又・帝釈天で働く寺男で寅さんの弟分を演じた、味わい深い名脇役である。記念すべきシリーズ50作目「お帰り 寅さん」にも登場し、ファンを喜ばせた。

 談話に移る前に、訃報の経緯について説明したい。

 昨年12月10日午前、近所に住む家族が訪ねたところ、浴槽の中でぐったりしている蛾次郎を発見。119番通報したが、すでに時遅し。遺体には目立った傷などはなく、その場で死亡が確認されたという。

 所属事務所の関係者によると、死因は虚血性心不全とみられる。入浴中の事故死だろう。

 で、談話である。映画の原作者である山田洋次監督(91)は蛾次郎の死に対し、マスコミ各社から求められ、こんな言葉を贈った。

「50年以上昔、大阪で、ある作品のオーディションを行った時、時間に遅れてニヤニヤ笑いながら現れた彼の強烈な印象はいまだに忘れられない。渥美清が仁王様、その足に踏んづけられている天邪鬼が佐藤蛾次郎。このコンビ無くして、寅さんシリーズは成り立たなかっただろう。典型を生み出すという、大きな仕事を、彼は小柄な身体、ユニークな表情、愛敬のあるガラガラ声で表現してくれた」

 亡くなった場所といい、その時の状況といい、本来なら暗く湿っぽくなりがちな蛾次郎の死だが、「仁王様と天邪鬼」という山田監督の表現が吹っ飛ばしてしまったようだ。旅立ちに際しての最大級の賛辞と言えなくもない。良かったなあ、蛾次郎!

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