【棋聖戦】藤井七冠が佐々木七段に勝利 中盤は「手を渡す」局面が続き、やや拍子抜けする投了

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 藤井聡太七冠(20)に佐々木大地七段(28)が挑む将棋の棋聖戦五番勝負(主催・産経新聞社ほか)の第3局が7月3日、静岡県沼津市の沼津御用邸東附属邸第一学問所で行われ、藤井が107手で勝利。対戦成績を2勝1敗とし、タイトル防衛まであと1勝となった。【粟野仁雄/ジャーナリスト】

藤井と相性のいい静岡県

 対局前日の前夜祭でファンの前に現れた藤井は「(沼津)市制100周年で将棋を指せるのは光栄です。2年前にここに来たときは大雨でしたが、(今回は)天気も良いようで、良い将棋を指したい」などと話した。

 藤井は静岡県とはかなり相性がいいようで、沼津市、掛川市、静岡市、富士宮市、牧之原市で行われたこれまでの様々なタイトル戦では、負けなしの7連勝を記録している。

 先手は藤井。互いに居飛車で進め、藤井が角道を開いて得意の「角換わり」になった。

 最初の1時間くらいは非常に早い展開だったが、藤井は45手目に13分ほど考えて「9七桂」と桂馬を跳ねた。ABEMAで解説していた屋敷伸之九段(51)は、「誰も思いつかない。藤井さんが温めていた構想なのかな」と話した。

 佐々木にとっても想定外だったのだろう、56分の長考の末に「4四銀」とした。この一手に解説の門倉啓太五段(36)は「これを指すなら『5四歩』のほうがいいような気もする」と述べた。

 その後、現地で大盤解説を務めた勝又清和七段(54)が登場し、「長くなるかもしれない。『9七桂』は控室でも全員が驚いていた。佐々木七段が巧く対応して崩されなかった」などと話した。

 通常、1筋と9筋の最下段にある香車の前に自駒を配置すると、端歩を突かれて崩されていく。藤井の将棋は桂馬を大胆に跳ねるのも特徴で、「桂の高跳び歩の餌食」という古くからの格言は死語のように思える。一方の佐々木も巧く対応し、五分の展開になる。

 昼食は藤井がカツハヤシカレー、佐々木が沼津名産の鯵フライ定食だった。

 午後にはさらに驚きの一手が出る。藤井は73手目に玉を左前に前進させて「8六玉」とした。歩を1枚挟んだだけで、この筋には相手の飛車が虎視眈々と狙っている。しかも何の守り駒もない玉の前進など普通は考えられない。右方向に逃げるほうがずっと安全に見えた。驚くばかりだった。

 そこから次第に藤井がリードを広げてゆく。佐々木はなかなか飛車を使った攻撃の糸口を見出させないままだった。

 藤井は大胆に前進させた自玉を「7七玉」から「5八玉」へと安全圏へスタコラと逃げてゆく柔軟さもみせた。変幻自在の藤井の将棋に佐々木はとまどったのか、持ち時間(4時間)を多く消費してしまった。

「手を渡す」とは

 この日、ABEMAで解説を務めた屋敷九段と門倉五段が盛んに口にしたのが「手を渡す」という言葉だった。

「手を渡す」は「手待ち」とも言う。将棋では自分の手番になっても、どの駒も動かさないほうがいいような局面になることがある。しかし、「パス」というルールはないので、必ず交互に指さなくてはならない。

 そうした際、とりあえず戦局にあまり影響のない無難な駒を動かして相手の出方を窺うのが「手を渡す」である。とりあえず端歩を突いて様子を見たり、金や銀をすぐに戻れる一手だけ動かしたりすることもある。

 硬直状態を打開する責任を相手に預けるといった意味もある。無意味に動かすわけではなく、もちろん一つの戦略ではある。

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