NHK元ディレクターが「ニュースウォッチ9」“捏造報道”を検証 “取材の素人”が企画、番組責任者は「栄転」していた

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取材に不慣れな“素人”が企画・取材・ロケも担当

 問題となったのは、5月15日、ニュースウオッチ9の最後に流れた「新型コロナ5類移行から1週間・戻りつつある日常」と題した約1分の映像でした。登場した3人は「繋ぐ会(ワクチン被害者遺族の会)」のメンバーで、国に新型コロナワクチン接種の責任を問いかけている人たちです。しかし、映像に“ワクチン”の4文字はまったく出てこず、彼らは「新型コロナワクチン接種の被害者遺族」として取材を受けたつもりだったのに、あたかも「コロナ感染で家族を亡くした遺族」として扱われたため、NHKに偏向報道されたと訴えているのです。

 ネット上では「新型コロナワクチンの問題を伝えようとした心ある現場職員を上層部が潰したのだ!」といった論調を見かけましたが、事はそんなに単純ではありません。取材をすると、末端から上層部まで全てがサラリーマン的論理のもとでグルとなって“捏造”に及んだことが分かりました。

 実は、問題の放送は通常とは異なる体制で制作されていました。ニュースウオッチ9では今回のように、不定期で30秒から1分程度の短いエンディングVTRを入れることがありますが、通常は主に、日々取材の最前線に立っているカメラマンやディレクターが制作しています。しかし、あの回では編集マンという、主にニュース映像等を原稿に合わせて編集する仕事を行う、取材に不慣れな“素人”職員が、企画・取材・ロケ・編集まで全てを担当していました。

提案票絶対主義

「繋ぐ会」が公表した資料によれば、編集マンのAは40歳。中途採用でNHKに入局し、局歴は決して長くありません。Aについての評価は分かれましたが、私の取材に応えてくれた関係者全員に共通していたのは、「現場での取材経験はほとんどない」、「新型コロナワクチンの健康被害のことを世に出すため、意図的に上層部を欺けるような器ではない」。

 Aが「新型コロナが5類になるタイミングだからこそ、コロナ禍を忘れないために、犠牲になった方々をインタビューで紡ぐショートムービーを作りたい」と、5月上旬に「提案票」を提出するところから企画はスタートしました。

 通常、取材をするのはディレクターや記者で、編集マンは担当しません。しかし今回は、企画立案者のAに取材も任せようという流れになりました。前田晃伸 ・前NHK会長の時代に始まった「ゼネラリスト化」の取り組みが、ここにも影響していました。Aと彼の直属の上司は、ニュースウオッチ9という晴れ舞台で提案が通ったことに舞い上がっていたそうです。

 提案票とはNHK内部で使われている用語で、世間でいう企画書に相当します。NHKでは原則として、全ての放送番組と企画に提案票が存在します。私もレギュラー番組や特番の提案票を競って提出し、採択を目指してしのぎを削ったものです。この提案票が採択されれば、晴れて放送枠と予算がゲットでき、さらに突っ込んだ取材やロケ等に進むことができます。

 この提案票、一度採択されたら、その内容から逸脱することはまず許されません。「取材を進めて行ったら話が違った」ということはよくあります。だからといって、テーマを変えるのは厳禁。いかにして提案票の通りの方向に寄せるかが問われます。確かに、提案票は受信料から予算を支出する根拠なのでやむを得ない部分もありますが、この「提案票絶対主義」が今回も問題の根幹にあったと私は考えています。

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