「何よりも選手の気持ちを優先」「プライドを傷つけないよう部屋に出向いて対話」 森保監督の監督術をコーチ陣が明かす

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 昨年のサッカーW杯カタール大会。森保一監督(54)率いる日本代表は、強豪ドイツ、スペインに奇跡的な逆転勝利を果たした。だが、それは、知られざる“監督術”のなせる業だった。前回の「野球・栗山英樹監督編」に続き、スポーツライターの小林信也氏がお届けする。

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 森保ジャパンのW杯カタール大会への道のりは“悪夢”から始まった。初戦のオマーン戦は、0対0の終了間際にゴールを奪われ、0対1で敗れた。6チームの上位2チームが本戦出場権を決めるアジア最終予選。次の中国戦こそ1対0で勝ったが、続くサウジアラビア戦にまた0対1で負けた。

「アウェーでサウジアラビアに負けて、後がない状況で強豪オーストラリアを埼玉スタジアムに迎えた。あの時は深刻でした」

 カタール大会日本代表コーチのひとり、上野優作(49)=現FC岐阜監督=が振り返る。

「チーム全体がナーバスでした。僕自身、なかなか経験のない感情に襲われていました。負けたら、日本サッカーの未来が大きく変わる試合でしたから」

 1998年フランス大会に初出場して以来ずっと続けてきたW杯出場が途切れたら……。誰もが重圧に圧し潰されそうだった。

 結果的に本大会でドイツとスペインふたつの優勝経験国を破った森保ジャパンだが、その船出は座礁寸前だった。この苦境を乗り越えて熟成されたチーム力が、本大会の礎になったのかもしれない。

「選手への配慮がすごい」

 いきなり直面した苦境に森保監督と5人のコーチ、分析等のスタッフ、そして代表選手たちはどのようにしてオーストラリア戦に立ち向かったのか?

「メンバーを変え、システムも変えました。練習で調子のよかった守田英正と田中碧を入れて、4―2―3―1から4―3―3のような形に変えた。守田と碧は川崎フロンターレでコンビネーションを組んでいたから、息の合ったプレーができる。調子もいい。二人を起用する裏付けはありました。その碧が先制点を入れてくれた」

 主力と目されていた鎌田大地、柴崎岳が控えに回った。彼らにとっては自尊心が傷つく痛恨の出来事だ。

「森保監督はそこが抜群にうまいのです」

 上野が感服した表情で言う。

「選手の部屋に森保さんが出向いて話をしていると思います。選手が外を向かないように、内側(チームの方)を向くように。そのあたりの配慮が一番すごいところだと思います」

 こうしたメンバー変更に不協和音の兆しを見つけ、不安論をあおったりするメディアもあった。だが実際に日本代表選手たちと2年の歳月を過ごした上野は証言する。

「コーチとして2年間関わった中で、代表チームを壊すような発言や態度は一切ありませんでした。メディアから聞こえる話はありましたけど、チームの輪から外れる選手はいません。

 代表レベルの選手はプライドが高い。けれどプライドを脇に置いて、チームのために耐えることができる。悔しい思いを飲みこめる選手じゃないと、海外で活躍できないのでしょう」

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