日本映画のアクションシーンは進化中 ずいぶん変わった業界事情をアクション監督・下村勇二氏が語る

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アクション監督が絶賛する清野菜名のすごさ

 下村氏によると、日本のアクション業界は現在、横のつながりが強くなっている。以前はアクションチームごとに垣根があったが、5、6年前から徐々になくなっていったという。

「今はフリーの人たちも含め、交流が進みました。そうすると、いまどこで誰が何をやっているとか、ここで人手が足りないといった情報が共有できるので、協力関係が生まれるわけです。垣根があったときは、僕を含めて“自分たちのやり方”しか知りませんでしたが、いまは技術的な情報交換もしています。それが、相対的な向上につながっているのでしょう」

「今際の国のアリス」シーズン2で作られたウレタン製アスファルトの技術は、同じ美術部が担当したNetflixシリーズ「幽☆遊☆白書」(2023年12月に世界同時配信予定)へと引き継がれている。現在、撮影で多く使われる安全な「ラバー刀」も、実は下村氏が「GANTZ」で考案したもの。「るろうに剣心」では、アクション監督の谷垣健治氏が模擬刀として取り入れ、小道具の稲村彰彦氏が改良を重ねたものだ。

「1度作ると、その技術は各部署がブラッシュアップを続け、他の作品でも使われ、より良いものになっていきます。そうして、アクション業界全体の底上げになるのがいいなと思いますね」

 今後、一緒に仕事をしたい俳優としては、すでに顔を合わせている山﨑や吉沢亮、二宮、松山らの名前を挙げた。新たに注目しているのは横浜流星。女性俳優では「キングダム2 遥かなる大地へ」で羌瘣(きょうかい)を演じた清野菜名を絶賛する。撮影にあたっては、古武術に近い“体の使い方”を学ぶべく、ストイックに修行を行っていたそうだ。

「横浜流星さんは高い身体能力でも有名ですが、特に最近の作品では内面的な演技表現も素晴らしいので、がっつりアクションをやるとまた面白いんだろうなと思いました。清野菜名さんはとても身体能力が高くて、アクロバットが非常にうまくて、バク転もできる。女性には珍しくパワフルな動きもできるので、普通にファイトのある作品をご一緒したいですね」

 前述のビデオコンテには、「スタントマンがこれだけ魅せるのだから、俳優であるあなたは本番でこれ以上のものを見せてくれますよね?」という触発効果もあるという。実際に完成した作品を観れば、誰もが「これ以上のもの」を見せていることは明白だ。

「漫画原作が増えていることもあり、アクションはお芝居の一つとしてほぼ必ず出てきます。俳優さんはアクションができると出演作品の幅が広がりますし、ケガも減る。普段から稽古をしていれば、作品が来たときにすぐ対応できるでしょう」

 練習であまり動けなくても、撮影で気持ちが入ると目覚ましいアクションを見せる俳優もいるという。アクションは観客を興奮させると同時に、俳優にとっても「自身の新たな世界」を開くという刺激をもたらすものなのだ。

関口裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ライター、編集者。1990年、株式会社キネマ旬報社に入社。00年、取締役編集長に就任。07年からは、米エンタテインメント業界紙「VARIETY」の日本版編集長に就任。19年からはフリーに。主に映画関係の編集と、評論、コラム、インタビュー、記事を執筆。趣味は、落語、歌舞伎、江戸文化。

デイリー新潮編集部

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