【どうする家康】史実とあまりに違う瀬名の描き方 「岡崎クーデーター」も難点が

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時代に合わない「反戦」のセンチメンタリズム

 ただ、先に述べたように、築山殿は武田方の忍びである千代と接触する。以後は『どうする家康』でも、築山殿が武田方と「内通」する様子が描かれるようだ。では、動機は?  

 それを探るヒントになるセリフがドラマのなかにあった。捕縛された大岡弥四郎は「信長にくっついているかぎり、戦いは永遠に終わらん。無間地獄じゃ」と叫んだ。また、5月21日放送の第19話では、家康の子を身ごもったお万(松井玲奈)が「私はずっと思っておりました。男どもに戦のない世などつくれるはずがないと。政も女子がやればよいのです。そうすれば、男どもにはできぬことが、きっとできるはず。お方様(築山殿)のようなお方ならきっと」と、思いを語った。

 どうやら、築山殿は戦いにまみれた状況に終止符を打ちたいという思いから、みずから武田と交渉した結果、「内通」の責任を信長に追及されて死に追いやられる、という展開になりそうだ。しかし、戦国時代の大名や国衆、家臣たちの行動原理は、漠然と「反戦」を志向するようなセンチメンタリズムではなく、自分たちの領国を守るためには、だれと組んでどう行動したほうが有利であるか、というもっと実際的な判断にあった。だから家臣団の間に対立が生じることもあったのだ。築山殿の判断も家康との不仲を前提にしながら、きわめて政治的であったはずである。

 NHKは『どうする家康』を「エンタテインメント」と銘打っている。そうである以上、盛り上げるために多少、史実を曲げることも必要なのかもしれない。だが、現実には、ドラマで演じられていることが史実だと勘違いしてしまう視聴者は少なくない。せめて「この物語はフィクションです」というテロップを入れてはどうだろうか。

香原斗志(かはら・とし)
歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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