【全米プロゴルフ】 「ビッグマネーに釣られた腑抜け」と批判されたリブ選手はなぜ強くなったのか

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なぜこんなに強くなったのか

 そして全米プロが終了した翌日の5月22日には、早くも次なるメジャー大会、全米オープンの地区予選の一部が行なわれ、そこでもリブゴルフ選手の奮闘が見られた。世界ランキングや欧米ツアーでの優勝実績といった条件を満たすことができない選手たちが、自力で出場資格を手に入れるための36ホールのワンデー・オープン予選を戦っているのだ。

 世界に先駆けて5月16日に行われた英国予選では、84名の挑戦者のうち7名が出場権を獲得。22日の日本予選では29名による戦いを経て、石川遼など3名が今年の大会の舞台となるロサンゼルスCCへの切符を掴み取った。

 そして同じく22日、米国ではテキサス州ダラス予選が行われ、リブゴルフ選手のセルヒオ・ガルシア(スペイン)が、参加者120名のうち8名だけが通過できる狭き門を潜り抜けた。米国での予選は6月5日にも全米10カ所で行われる予定だが、そこにはリブゴルフ選手がさらに20名ほどエントリー済みだと見られている。

 昨年の夏ごろリブゴルフ選手たちは、世界ランキングのポイントが付与されないために順位が低下し、メジャー大会への出場が危うくなっていくことに怒りの声を上げていた。リブゴルフを率いるグレッグ・ノーマンCEOも、世界ランキングの対象ツアーとなるために手を尽くし、弱小ツアーと提携してそのツアーの下部に入るという苦肉の策まで講じた。しかし、その奇策は思惑の通りには運ばず、失敗に終わった。

 そんな経緯を経たリブゴルフ選手たちは、どうやら腹を括った様子である。「世界ランキングのポイントがもらえないのなら、あらゆるチャンスを逃さずに活かし、なんとしてでもメジャー大会に出てみせる」という気概が、全米プロでの奮闘ぶりや全米オープン地区予選への積極的な挑戦から伝わってくる。

 切羽詰まってきたからこそ、彼らのサバイバル本能が自ずと高まってきたのだと私は思う。

かつて批判した者も…

 そうやってリブゴルフ選手たちが、たとえ数名であってもメジャー大会に挑み続けていけば、リブゴルフとメジャー大会が完全に切り離されることはない。たとえリブゴルフ選手に世界ランキングのポイントが付与される日が来なくても、彼らがメジャー大会の場から完全に消え去ることはおそらくはないだろう。

 そもそもリブゴルフ選手の大半は、元々はPGAツアーでトッププレーヤーとして活躍していたのだ。ゴルフの調子や心身の状態など、さまざまな条件がうまく嚙み合ったとき、メジャーを制する可能性は十分にある。

 今回のケプカの勝利は、その可能性の高さを実証する形になったと言えそうだ。

 ビッグマネーをちらつかされてリブゴルフへ移籍した彼らは、「腑抜け」と揶揄された。さらに、予選カットなしの3日間54ホールだけしか戦わずして破格の賞金が約束されている彼らのことを、「牙を抜かれたアスリート」と批判する者もいた。

 だが今、彼らは再び牙を取り戻し、研いだ牙を剥き出しにして挑み始めているのではないだろうか。世界ランキングの道が閉ざされ、窮したからこそ本気になったのだとすれば、リブゴルフ選手たちのこれからはいろんな意味で面白くなる。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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