東京郊外にある大物次官の行きつけのスナックで人事を密談、子飼いをゴリ押し…【国交省OB人事介入の闇】

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 国土交通省の大物OBが民間企業である「空港施設」の人事に露骨に介入していた一件について、4月28日、同社が経緯について検証した独立検証委員会の報告書を公表した。

 流れをざっと整理すると、以下の通りだ。

 国交省元東京航空局長の山口勝弘氏は退官後、空港施設に天下りして取締役に就任。その後、出身である国交省の威光をチラつかせながら副社長就任を要求し、実際にその通りのポストを得た。それだけではなく、昨年末には、国交省元事務次官の本田勝東京メトロ会長が、山口氏の社長への昇格を要求してきたが、これを同社は拒否。

 まるでヤクザの企業乗っ取りのような経緯であることに加えて、副社長ポストを要求する時の音声まで流出したこともあり、大きな話題となったのである。

 一言で片づけてしまえば「卑しい」ということになるのかもしれないが、背景には官僚を取り巻くさまざまな状況が関係している、と指摘するのは長年、霞が関、永田町で取材してきたジャーナリスト水沢薫氏である。

 天下り問題の本質に迫るディープレポートを2回に分けてお伝えする。(全2回の1回目)

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 概して「天下り」の評判は悪い。官僚の悪行の一つとして考えられているような感すらある。

 最近、天下り関連で大きく報道されたのは国土交通省の元次官による、空港施設(東京)へのOB人事介入だった。

 だが果たして「天下り=悪」という単純な見方でよいのか。その見方をもとに、当事者を批判することに終始して、物事 は良くなるのか。

 現在の霞が関の人材流動システムの機能不全を解決する必要があると筆者は考える。次官になれる人材以外の同期はすべて退職する仕組みで、本省の局長になれる官僚もごくわずか。昇格できるポストが少なくなっていくと働き盛りの50歳代そこそこで放出される。

 そんな硬直化した人材運用に見切りをつけた若手・中堅の退職が相次ぎ、若いうちは雑用だらけの仕事に優秀な新人は集まらず、最初から高給とやりがいを確保された民間企業を選ぶ。本来は「国家や世界を相手にダイナミックで面白い仕事をする」(主要官庁現役官僚)場所が与えられるのに、人材難は深刻だ。日本の頭脳である霞が関の混迷は、ひいては日本のクライシスにつながりかねない。現状を、永田町や霞が関を長年、取材してきたジャーナリストとして紐解いて、何らかの「解」を考えてみたい。

「天下り」とは何か。一般的には、官僚が定年退官後に民間企業に再就職することで、秘書課や人事課といった霞が関の人事部局などからの斡旋、もしくは何らかのつてを得て、新たな企業や組織に入ることである。

 現在では大っぴらな「天下り」は表向き、行われてはいないことになっている。1990年代後半の旧大蔵省の接待汚職を契機に、出身官庁の威力を着て、官僚OBが高給で民間業界に転じて業界に圧力をかける、といった「天下り」の弊害が強く批判されるようになったためだ。とはいえ実際は、人事当局と有力OBが連携して、再就職先を探すのが慣習となっている。

 例えば財務省の次官を務めた木下康司氏は現在、政府系金融機関の日本政策投資銀行の会長を務めているが、おそらく財務省秘書課の関与した人事であろう。

 官僚OBを、顧問やアドバイザー職で受け入れる民間企業や法律事務所も多かった。よく言えば霞が関との「パイプ役」、悪く言えば業界向けの「用心棒」として一定のニーズはあった、と言える。だが企業のガバナンス改革に伴い、そうしたニーズも総じて減少傾向にあるといえる。

 控え目になったはずの「天下り」だが、財務省のように大きな不祥事を経験していない官庁では必ずしもこの限りではない。国土交通省の場合、いまも本体、そして有力OBによる斡旋が盛んに行われていることが、空港施設への人事介入で明らかになってしまった。

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