“嫁”と呼ぶ夫、“主人”と呼ぶ妻 ドラマ「わたしのお嫁くん」は因習撲滅キャンペーン?

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 女偏に家と書いて「嫁」。我が夫が一時期、私のことを「ヨメさん」と呼んでいたが訂正させた。「私はあなたの妻であって嫁ではない」と。面倒くせぇなと思うかもしれないが、嫁とは「息子の配偶者」なので間違っとる。嫁と呼んでいいのは義親であって、夫は妻と呼ぶべし。または名前で呼ぶべきかと。

 何の話の前振りかというと「わたしのお嫁くん」である。日本語の呼称の不確かさや、女性に押し付けられる役割の不条理さが、怒濤のごとく押し寄せてくる稀有なラブコメディー。途中から「嫁の定義って何だっけ?」「世の中の嫁はこんなにオーバータスクなの?」と天を仰いじゃった。

 家電メーカーの営業部に勤める主人公・速見穂香。清潔感・安心感・満足感をモットーに、常に爽やか&細やかな気配りで、対外的にも社内でも一目置かれる女性だ。「いいお嫁さんになる」と男性陣から評価されるも本人は困惑。実は家事が大の苦手、家は足の踏み場もないゴミだらけの汚部屋だから。演じるのは波瑠。明眸皓歯(めいぼうこうし)な波瑠のおかげで、汚く見えないかもしれないが、結構ハイレベルな汚部屋で、ニオイもすごそう。Gも確実に同居していそうだ。

 社内で唯一、穂香の汚部屋を知っているのが後輩の山本知博。新人時代に大きな失敗をしでかしたとき、穂香の神対応&笑顔で救われた経験がある。先輩として尊敬するだけでなく好意を抱く。演じるのは高杉真宙。知博が幼いときに両親は離婚。年の離れた兄ふたり(過保護な長兄役・竹財輝之助&放任主義の次兄役・古川雄大)に育てられ、業者級の家事スキルが身に付いているという設定だ。

 穂香は家事から解放され、QOL爆上がりのメリット、知博は大好きな穂香に近づけるメリットがある。同居に踏み切るも、あれやこれやの悶着が起こるという話。

 始まりは「山本君がお嫁さんに来てくれたらいいのに」という穂香の冗談。世間が嫁に求めていることを完璧にこなそうとする知博。「俺が嫁に来たからには!」と張り切りすぎて本末転倒。穂香も息苦しさを覚える。

 ああ、そうか、これは嫁に対する押し付け、性別役割分担意識を撲滅するってことなのね。そのキャンペーン、喜んで乗っかります。

 いや、もちろん絵空事ですよ。相手が波瑠だからこその滅私奉公で、真宙のような見目麗しい家事神が存在するはずがない。それこそ劇中で、穂香の親友(ヒコロヒー)が語った「ユニコーンとかカッパとか足の痛くならないヒールのような幻の存在」だよ。それでも重要なのはテーマだ。性別で役割を決めつける因習をぶっ壊せってことだよね。

 観ているうちに「嫁」という単語がゲシュタルト崩壊していく。ヨメって何よ、ヨメの前にオンナであり、ヒトだよね、と学んでいく。そんな作品であってほしい。

 知博の毒兄たちも気になるが、同期の女性(顔芸の激しい仁村紗和)も今後ひと波乱起こしそうなので、ちゃんと見届けないとね。

 個人的には「妻を嫁と呼ぶ男性」だけでなく「夫を主人と呼ぶ女性」を減らしていきたいんだけどなぁ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2023年5月4・11日号掲載

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