グローバル・サウスにとってウクライナは“厄介者” スーダン内戦への武器流入を疑う見方も

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「ゼレンスキー大統領にも責任がある」

「ウクライナ戦争は今年中に終息する可能性はなく、来年も続くだろう」

 大量の政府機密文書が流出したことで、米国の情報機関がこのような予測を立てていたのが明らかになった。戦争が長期化するにつれて、ウクライナ政府から西側諸国への軍事支援の要求は高まる一方だ。

 ウクライナを支援する西側諸国とロシアとの対立は決定的になりつつあるが、その悪影響を最も受けているのはグローバル・サウス(南半球を中心とした途上国)だ。

 このため、彼らの間で和平を模索する動きが活発化しつつある。4月に入り、最も目立った動きをしているのはブラジルのルラ大統領だ。

 ルラ氏は中国訪問中の4月15日、ウクライナ侵攻に関し「米国は戦争を助長するのをやめ、平和について話し始める必要がある」と述べた。ルラ氏は昨年5月の米誌「タイム」のインタビューで「(ウクライナ戦争について)ゼレンスキー大統領にも責任がある」と発言しており、西側諸国との見解を異にしている。

 ルラ氏はさらに、ウクライナの和平に向けた多国間協議の枠組み(和平クラブ)を提案する構えだ。和平クラブのメンバーは未定だが、西側諸国を排除するという。早期停戦を望むグローバル・サウスの声を代弁し、自国の存在感を高めることが狙いだとされている。

 ルラ氏の発言に対し、ジャンピエール米大統領報道官は4月18日「(ブラジルの)主張は中立的ではない」と批判、苛立ちを露わにしているが、グローバル・サウスの存在感はこのところ高まるばかりだ。

 西側諸国は「経済制裁でロシアを締め上げ、ウクライナに有利な形で停戦に持ち込む」戦略に打って出たが、グローバル・サウスがこれに追随することはなかった。

スーダン内戦とウクライナ戦争の関係

 焦った西側諸国はグローバル・サウスの取り込みに躍起になっている。

 主要7カ国(G7)の外相は、4月18日にまとめた共同声明で「民主主義」という用語を3回しか使わなかった。21回も使用された昨年の共同声明とは様変わりだ。「民主主義の理念を掲げるだけではグローバル・サウスを味方にするのは難しい」という「不都合な真実」に西側諸国がようやく気づいた形だ。

 西側諸国は、ウクライナ戦争で苦境に陥るグローバル・サウスの国々を個別に支援する姿勢も示し始めている(4月22日付の日本経済新聞)が、これにより西側諸国の「ロシア包囲網」はグローバル・サウスにも広がっていくのだろうか。

 西側諸国の姿勢が変化したことは望ましいことだが、「残念ながらこのアプローチだけではグローバル・サウスの支持を得るのは無理ではないか」と筆者は考えている。

 ウクライナ戦争当初から「西側諸国が支給した武器・弾薬等が他国に横流しされている」との懸念が生じ、グローバル・サウスにとって悩みの種になっていた。その後もこの状況が是正されていないことから、特にアフリカ諸国の政情が悪化するとの警戒が強まっていたが、その矢先の4月15日にスーダンで再び内戦が起きた。ウクライナから流入した武器等がその一因となっている可能性は排除できないだろう。

 グローバル・サウスにとってウクライナは「厄介者」になった感が強いが、最も許せないのは西側諸国の支援が同国に集中していることだ。グローバル・サウスのリーダーを自認するインドは「世界的な貧困拡大防止策が急務なのにもかかわらず、ウクライナ戦争ばかりに関心が集まっている」と猛反発している。

 国際人権団体アムネスティ・インターナショナルも「(西側諸国は)ウクライナ以外の地域での人権状況に沈黙している」と批判的だ。

 国際人道支援団体「国際救済委員会」が昨年12月に作成した「警戒すべき危機リスト」によれば、1位はソマリア、2位はエチオピア、3位がアフガニスタン、ウクライナは10位に過ぎない。ウクライナよりも悲惨な状況にある国が少なくないのだ。

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