「教場0」 キムタクの存在感ばかり注目されるが、正統派ミステリーとしての評価はどうなのか

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 木村拓哉(50)が主演するフジテレビの新連続ドラマ「風間公親-教場0-」(月曜午後9時)は異色の作品と呼べる。日本のドラマとしては珍しく、正統派のミステリーだからである。どうしてもかつての視聴率王・木村の存在ばかりクローズアップされるが、総合的に評価すべき作品だ。

フェアなミステリー作品

「風間公親-教場0-」は倒叙ミステリー。物語の序盤で犯人と犯行手口が視聴者に明かされる。その後、神奈川県警捜査1課の刑事指導官・風間公親(木村)と新米刑事・瓜原潤史(赤楚衛二・29)が犯人を割り出し、犯行を立証する。

 倒叙ミステリーの代表作は「刑事コロンボ」(1968年)とフジテレビ「古畑任三郎」(1994年)だが、「-教場0-」も負けてはいない。通常のミステリーとは順番が逆であるため、構成が難しく、だから作品数は少なめだが、観る側には刑事と一緒に犯罪の立証を考えるという楽しみがある。

 その上、「-教場0-」はフェアな作品だ。犯罪の立証を推理する材料を視聴者にも十分に提供する。日本の刑事・警察ドラマがミステリーとして不人気な理由は、無理に意外な人物を犯人に仕立て上げたり、観る側に与える推理材料が少なすぎたりするからだ。

 第1話で扱われた事件は「タクシー内でのホストクラブ経営者殺害事件」と「リサイクルショップ経営者射殺事件」。まず、ホストクラブ経営者の芦沢健太郎(久保田悠来・41)がデパート販売員・日中弓(内田理央・31)にタクシー車内で刺殺された。

 弓は乗車早々、芦沢に向かって「シートベルトしてよ」と言った。この言葉が、2つのことを観る側に伝えてくれた。

 まず、弓はタクシーに理解があることがうかがえた。乗客がシートベルトをしないと、運転手が道路交通法違反に問われてしまうが、それでも着用しない乗客が多い。弓は芦沢と交際する一方、第一協同タクシー社長の御曹司と婚約していたので、業界の事情に通じていた。風間と瓜原が弓に辿り着く端緒となった。

 もう1つの分かったことは弓に最初から殺意があったこと。シートベルトをさせて、芹沢の動きを制限したほうが、刺しやすい。

 一方で芦沢も弓の殺意に気づいていた。これも推理材料として作品側から与えられた。「おまえが何をやろうしているか分かっている」(芹沢)。その上で観る側は芹沢の不可思議な行動の理由を考えなくてはならなかった。無論、風間と瓜原もそうだ。

 死を覚悟していた芹沢は目的地までの最短距離を選ばず、運転手に左折と右折を繰り返させた。どうして不自然極まりない走行コースを選んだのか。

 その後、作品側から視聴者に次々とヒントが出された。瓜原が弓に目を付け、職場のデパートを訪ねた際、カメラは弓の名札をアップにした。「日中弓」。弓の名前に意味があることを知らせてきた。

 瓜原は弓を参考人聴取に踏み切るものの、収穫はなく、それどころか「証拠はあるんですか?」と毒づかれる始末。一方、風間は弓に対し「あなたのお名前、特徴があるの、ご存じですか」と言った。視聴者に対しては2度目のヒントになった。

 弓の殺意を察知していた芹沢は彼女の名前を走行コースに残していたのである。「日中弓」。3つの漢字は一筆書きが出来る。タクシーにはGPSが搭載されているから、走行コースに残っていた彼女の名前が分かった。風間は早々と気づいた。

 それが所轄署に伝えられ、取り調べを受けた弓が観念し、自供した。無理の感じられない筋書きだった。途中で答えに気づいた人も少なくないはずだ。

 自供の経緯は描かれなかった。説明過多でないのも「-教場0-」の特徴なのだろう。ちなみにミステリーの本場であるイギリスのドラマも観る側に想像する余地を残す。日本の多くの刑事・警察ドラマのように、作品終盤に刑事が事件の全容を説明するようなことはしない。

 このエピソードは長岡弘樹氏による原作小説『教場0』の「仮面の軌跡」に基づいていた。原作はベストセラーだが、君塚良一氏による脚色も出色で、風間が瓜原を厳しく指導する場面が強調されていた。原作で弓を仕留めるのは風間だが、ドラマではいつの間にか事件が解決し、瓜原が悔しがった。ドラマはこれで良かったのではないか。

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