グローバルサウスの盟主を目指すインドの危うさ モディ首相の触れられたくない過去も問題視

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「中国という全体主義国家は、多方面からの戦略を用いて米国を追い落とし、世界に君臨する超大国になろうとしている」

 インド陸軍のパンデ参謀長は3月27日、米誌ニューズウィークのインタビューでこのように述べた。近年のインドの高官としては最も過激な中国批判の1つだ。

 パンデ氏は中印国境の最前線で指揮をとるインド軍の最高幹部だ。

 インドと 中国が軍事衝突したのは、1962年。両国の間の全長約3400キロメートルに及ぶ実効支配線の一部をめぐっての争いだった。その後、小康状態が続いていたが、2020年6月に、半世紀近くなかった死者を出す衝突が発生し、昨年12月にはインド軍が米国情報機関の支援を得て実効支配線の西側から侵入した中国軍を撃退したとされている。

 パンデ氏は「北部国境沿いの軍の配備を見直し、高次の準備態勢を維持している」と自信を示しているが、中国との対立は長期にわたって続くことが懸念されている。

 中国との国境紛争を重く見たインド政府は3月中旬、銀行や貿易業者に対して、ロシアからの輸入代金支払いに中国の人民元を使わないように働きかけている(3月13日付ロイター)。

 これは、インドがロシア産の原油や石炭の最大の買い手になったことが関係している。

 ウクライナ戦争の影響でロシアでは、米ドルに代わり人民元が最も取り引きされている外貨となっている。中国は3月末、アラブ首長国連邦(UAE)産の液化天然ガス(LNG)を人民元建てで購入する契約を成立させた。

 エネルギー取引の分野で人民元のプレゼンスが高まっているのにもかかわらず、「インド準備銀行(中央銀行)は人民元による貿易決済に乗り気ではない」とインドの銀行関係者は語り、「政府が人民元の利用を妨げている」と嘆いている。

 インド政府はさらに4月から自国通貨ルピー建ての貿易を促進する方針を明らかにしており、マレーシアやミャンマーとの貿易をルピーで決済することを発表している。

「今年はインドが世界を主導するきっかけに…」

 中国との確執が通貨の問題に波及した形だが、最近のインドはとにかく鼻息が荒い。インドの経済規模は中国の6分の1に過ぎないが、足元はインドが俄然優勢だからだ。

 インドの昨年の実質国内総生産(GDP)は6.7%の成長となり、中国の伸び率を上回った。

 ドルベースの昨年の名目GDP(約3兆3800億ドル)は日本の8割に迫っている。

 昨年、中国が人口減に転じたのに対し、インドは2060年代まで人口増が続き、17億人に近づくと予測されている。

 パンデ氏はこのような現状を踏まえ「インドは今日、世界の舞台で一大勢力として台頭している。現在のインドは、経済成長や他国との戦略的連携を後ろ盾に『グローバルサウス』の声となっている。今年はインドが世界を主導するきっかけとなる分水嶺の年になる」と自信満々だ。

 グローバルサウスとは、南半球に多いアジアやアフリカなどの新興国・途上国の総称だ。北半球の先進国と対比して使われることが多い。

 ウクライナ情勢を巡り欧米諸国とロシアとの対立が深まる中、国連決議などの場面でグローバルサウスの動向が注目されるようになっている。

 成長著しいインドだが、世界銀行による位置づけは「下位中所得国」であり、途上国が直面する問題を当事者として理解できる立場にある。

 西側諸国が中国やロシアと対抗する上で、同じ民主主義を看板に掲げるインドを重視するようになっていることも追い風だ。特に、日米豪との「クアッド」の枠組みはインドにとって戦略的な強みとなっている。

 モディ首相もこのことを十分に自覚している。西側諸国と良好な関係を武器にグローバルサウスの盟主として、目障りなライバルである中国を追い詰めようとしている。

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