選手とファンが乱闘で“警察沙汰”に…昭和のプロ野球で起きた大騒動

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「その男を捕まえてくれ」

 空き瓶を投げつけられた外野手が、犯人を捕まえようとスタンドに立ち入る事件が起きたのが、1964年7月12日の大洋対巨人である。

 9回表、巨人の攻撃が始まる直前、外野スタンドからレフト・長田幸雄に目掛けてウイスキーの空き瓶が投げつけられたのが、事件のきっかけだった。

 幸い狙いは外れたものの、度を越したマナーの悪さに激怒した長田は、近くの観客に「その男を捕まえてくれ」と怒鳴った。

 すると、男性が慌てて逃げだしたため、長田はフェンスの金網をよじ登ると、観客席に飛び込んだ。“ポパイ”の愛称を持つ長田が、敵役のブルートに変身したかのような光景にスタンドは騒然となったが、間もなく男性は警備中の川崎署員に取り押さえられた。

「守っていると、いきなりウイスキー瓶が飛んできたんです。その前に紙コップも飛んできた。瓶が当たったらケガをしてしまうので、“その男を捕まえてくれ”と頼んだのに、みんな知らん顔。そのうちに男が逃げていくので、僕は捕まえて警察に渡そうと思って、スタンドに飛び込んだんです」

 このように事情を説明した長田だったが、松橋慶季・左翼線審は野球規則3.09(選手が観衆に話しかけたり、スタンドに座ることなどを禁止)を適用し、退場を宣告した。

 直後、大洋・三原脩監督が「長田がスタンドに入ったのは悪かったかもしれないが、ファンが何をしようと選手がじっと我慢していなければならないというのは矛盾を感じる」と抗議し、試合は10分中断した。

 ウイスキー瓶を投げつけた39歳の男性は、川崎署によれば「自分の名前を言えないほど酔っていた」という。“大トラ”に水を差された形の大洋だったが、2点を追う9回裏、猛反撃で3点を挙げ、劇的な逆転サヨナラ勝ちを飾っている。

「なぜ警察に呼ばれなければいけないのか」

 相手チームのファンに取り囲まれた選手が暴行に及ぶ事件が起きたのが、1984年8月15日の巨人対阪神の試合前だった。

 同日午後2時半ごろ、巨人の外野手、レジー・スミスが息子とその友人を連れて後楽園球場の14番ゲート付近に差しかかったとき、入場待ちで並んでいた阪神ファン約60人が“人種差別”と思われる罵声を浴びせながら取り囲んだ。スミスは以前から阪神ファンとグラウンドの内外でトラブルが相次ぎ、悪感情を抱かれていた。

 そんな騒ぎのなか、ファンの一人に息子を突き飛ばされたことに激怒したスミスは、近くにいた21歳の男性を殴り、さらに高校生の襟首を掴むなどの暴行を加えた。

 全治1週間のケガを負った男性と高校生が富坂署に被害届を出したことから、スミスは試合終了後、事情聴取を受けることになった。

 調べに対して、スミスは暴行の事実を認めたものの、あくまで正当防衛を主張し、「なぜ警察に呼ばれなければいけないのか」としょげ返った。

 結局、「以後暴力は慎むように」の訓告を受けて放免され、事件も不起訴になったが、メジャー時代にもこの種の事件で裁判沙汰になった過去から、「すでに(契約満了で)解雇は決定的だったが、シーズン終了を待たずに帰国する可能性も出てきた」と報じるスポーツ紙もあった。

 だが、スミスは助っ人仲間が「あの短気な男がよくぞここまで」と感心するほどの忍耐強さでシーズン終了までプレーを続け、10月2日のヤクルト戦で現役最後の本塁打となる代打3ランを記録している。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮編集部

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