なぜ日本の高齢者は不幸なのか 千人超の最期を診た医師が語る「幸福な老後」の作り方

ドクター新潮 ライフ

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 世界に冠たる長寿大国ニッポン。だが、歓迎すべきことと思われるこの現実を、実は私たちは手放しでことほぐことができない。なぜなら日本の高齢者は“不幸”だから……。死の淵に立ったお年寄りを多数目の当たりにしてきた救急医が、「幸福な老後」とは何かを問う。【諸岡真道/元日本赤十字社医療センター救急医】

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 男性5時間26分、女性5時間28分。

 これはNHK放送文化研究所が2021年に発表した、70歳以上の方の1日あたりのテレビ平均視聴時間です。睡眠を8時間として、それを除き起きている時間の実に3分の1を、テレビの前で座って過ごしている計算になります。決して潤沢ではない老後資金を使わずに、かつ外出することなく楽しめる“安全”な娯楽が他にはあまりないからでしょう。

 老人ホームなどの施設でも、入居者にテレビを観せて一日の大半を過ごさせているという話を聞きます。なぜでしょうか。

 それは施設で働く方々が“優しい”からです。彼らは入居者である高齢者を転倒などのリスクから遠ざけ、「死なせないこと」を最大の目的としています。そのため、入居者をテレビの前に座らせておくのが最善の選択であり、ご家族も入居者が死なないことを求めているのでそれを良しとする。

「死なせない」は正しいのか

 また、死なせないこと、つまり入居者の健康維持の観点から、ケーキを食べてはダメ、アルコールも禁止、タバコなどもってのほかという施設が少なくありません。

 一見、「正しい方針」に映ります。しかし、果たして本当にそうなのでしょうか。それで高齢者は幸せなのでしょうか。救急救命の現場で医療に携わってきた私の立場からは、必ずしもそうとは言い切れないと感じています。

 実際、自分自身のことを幸せだと感じる程度を表す「主観的幸福感」は、外国の高齢者と比べて日本の高齢者のほうが低い。つまり、日本の高齢者は幸せを感じていない。世界に冠たる長寿大国である日本で、どうしてこのような事態が生じているのでしょうか。

〈こう問いかけるのは、137年の歴史を誇る日本赤十字社医療センター(東京都渋谷区)の救命救急センターで3年間勤務した経験を持つ諸岡真道(まさみち)医師だ。

 救急医療の現場で千人以上の最期を診てきた諸岡医師は、内閣府の「医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ」(2022年8月)で高齢者の救急医療の現状等について提言を行い、『「幸せな90歳」を迎えるために家族に知って欲しいこと』(ごま書房新社)を出版するなど、超高齢社会である日本の医療のあり方に関する論考を深めてきた。

 救急医療、すなわち「命を救う」最前線に立つことで見えてきた、日本の高齢者が置かれている現実とはいかなるものなのだろうか。〉

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