花巻東のスラッガー佐々木麟太郎は「ドラフトの目玉」になるか…スカウト陣が語る“不安要素”

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「守備の動きは決して良くありません」

 その一方で、スカウト陣の間では“不安要素”を指摘する声もある。前出のセ・リーグ球団スカウトは、佐々木の守備と走塁を分析したうえで、こう話す。

「打撃に対する評価が高いことは確かなのですが、それ以外のプレーは、目立たないですよね……。キャッチャーやサードもやっているみたいですが、基本的にファーストの選手だと思いますし、守備の動きは決して良くありません。(昨年、セ・リーグの三冠王に輝いたヤクルトの)村上宗隆は、九州学院時代にキャッチャーだったのですが、足が速かった。清宮幸太郎もベースランニングでスピードがありましたし、プロ入り後は外野を守っています。佐々木が『足が遅くて、ファーストしか守れない』となれば、どうしても外国人選手とポジションが重なりますよね。それを考えて、ドラフト指名を回避するような球団が出てくるかもしれないです」

 過去に、前出のスカウトが指摘するようなケースがあった。2017年のドラフト会議では、清宮に対して、日本ハムをはじめ、巨人や阪神、ヤクルト、ソフトバンク、楽天、日本ハム、ロッテという7球団の1位指名が競合した。しかしながら、広島などは「(清宮には)足の速さがない」という理由で、早々に指名を回避している。指名打者制がないセ・リーグは、「ファースト専門」の選手を高く評価しづらいという事情はありそうだ。

150キロ超えのストレートへの対応も課題

 また、最大の持ち味であるバッティングにも“不安要素”があるという。前出のパ・リーグ担当スカウトが、以下のように指摘する。

「特に、高卒でプロ入りした選手の場合、変化球への対応に誰もが苦しみますが、その前に、まず速いストレートをしっかり打てるかという点が重要だと思います。(以前に比べて)アマチュアのピッチャーもスピードが速くなったとはいえ、プロもそれ以上にストレートのレベルが上がり、150キロ以上のストレートが当たり前になっています。特に、ホームランバッターは、体に近いところの速いボールで攻められることが多いので、こうした球をしっかりとらえられるかが重要ですね。佐々木は、まだ速いボールへの対応に苦労しているように見えます。そのあたりは春以降、速いストレートにどう対応していくのか、(継続して)チェックしていくと思います」

 佐々木の速いストレートへの対応は、十分だといえない。昨年の選抜で、市和歌山の最速150キロ右腕、米田天翼と対戦した時には、4打数ノーヒット、2三振と完璧に抑え込まれている。さらに、夏の岩手大会・準決勝の盛岡中央戦で、斎藤響介(オリックス3位)から2安打を放つも、いずれも完璧に差し込まれた当たりで、快音は聞かれなかった。彼らのようなレベルの高い投手が投げ込むストレートをいかに打つか。最終学年での大きな課題になりそうだ。

 もう一つ気になる点は、故障が多いことだ。1年秋に左足のすねを疲労骨折で負傷したほか、この年のシーズン後に、神経や血流の障害で手がしびれたり、腕に力が入りにくくなる「胸郭出口症候群」で両肩を手術している。このほかにも、先ほど触れた盛岡中央戦で手人差し指を骨折。また、昨秋の東北大会後の練習試合でも、足を痛めたままプレーしていたという。この状態で、これだけホームランを量産しているのは、さすがとも言えるが、しっかりコンディションを整えて、フィジカル面を鍛える必要はあるだろう。

 あらゆる“不安要素”を挙げたが、佐々木のスイングとホームランの弾道を見ると、ポテンシャルの高さは相当なものがある。今秋に開かれるドラフト会議に向けて、佐々木がさらに成長した姿を見せてくれるのだろうか。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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