バイデン政権のアキレス腱を中国がひそかに攻撃 次期大統領選の争点になる可能性も

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米大統領選挙の争点に?

 だが、バイデン政権の圧力強化に不満を募らせる中国政府は、その報復として2019年に強化したフェンタニルに関する輸出規制を緩めている(2022年12月27日付ウォールストリートジャーナル)。バイデン政権が新疆ウイグル自治区での人権弾圧や台湾への軍事的圧力を非難するたびに、米国でのフェンタニルの流通量が急増するパターンが相次いでいるという。

 特に中国側の動きが顕著だったのは、昨年8月にペロシ連邦下院議長(当時)が台湾を電撃訪問した直後だ。

 中国政府はフェンタニル規制関連の交渉窓口を閉鎖した。米国政府は駐米中国大使館などを通じて対話を求めているが、中国側は没交渉の姿勢を貫いている。

 昨年11月にバイデン大統領と習近平国家主席が首脳会談を行い、両国の関係改善の兆しが出ているものの、中国側は米国の検察当局が指名手配したフェンタニル関連企業の取り締まりに応じておらず、事態改善の目途は立っていない。

 米国からの度重なる抗議に対し、中国外交部は「米国人による過度の薬物依存が問題だ。なぜ中国のせいにするのか」とけんもほろろだ。

 ホワイトハウスで薬物問題を担当するグプタ国家薬物管理政策局長は1月24日付英フィナンシャルタイムズのインタビューで「中国とメキシコの犯罪集団が(米国での)フェンタニルの取引を拡大するのは時間の問題だ」と危機感を露わにしている。

 米国の圧力強化に反発する中国がフェンタニルに関する規制を再び強化しなければ、米国社会のさらなる不安定化は避けられない。

 この問題が2024年の米大統領選挙の争点の1つに浮上する可能性が生じている。

 トランプ前大統領は1月28日、次期大統領選挙に向けて本格始動した。

 ニューハンプシャー州で演説したトランプ氏は「バイデン政権の移民政策が麻薬流入などによる治安悪化を招いた」と酷評し、「麻薬取引の撲滅」を最重要公約に掲げた。移民の流入が拡大し、メキシコ国境での薬物管理にまで手が回らなくなっているバイデン政権の無能ぶりをクローズアップするのが狙いだろう。

 トランプ氏は中国に対しても2019年の時以上の厳しい規制を求める可能性が高い。

 人気に陰りが出ているトランプ氏だが、バイデン政権が一向に改善することができない薬物問題を争点化すれば、次期大統領選挙でリベンジを果たすことができるのかもしれない。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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