日本で一番「人口が増えている街」 “駅のスゴイ仕組み”に子育て世代が大注目「なんで今までなかったんだろう?」

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 長野市の公園廃止問題で多く聞かれたのは、クレームの主に対しての怒りの声とともに、自治体に対する批判だった。

「こんなに子育てに理解のない市には住みたくない」「いまどき、ここまで子育てに理解のない自治体があるなんて」といった類の意見である。かつては「教育県」などと言われていた長野県の県庁所在地としてははなはだ不名誉な評価を得ることになってしまったわけだ。

 言うまでもなく、現代において子育てのしやすさはそのまま自治体の評価につながる。

 この点で先進的な取り組みをしたことで評価を上げているのが千葉県流山(ながれやま)市である。

 国内最大の住宅ローン専門金融機関のアルヒが発表している「本当に住みやすい街大賞」の2023年版によると、関東のトップは東京・西八王子(JR中央本線)、2位が千葉県の流山おおたかの森(つくばエクスプレス)、3位に東京の新小岩(JR総武線)と続く。

 流山市といえば、「母になるなら、流山市。」「父になるなら、流山市。」のキャッチフレーズで知られ、首都圏で働く共働き世帯にとっては近年にわかに注目の的となっている。

 流山市はどんな政策をとっているのか。

 親は、子どもはどんな暮らしができているのか。

 その秘密を、経済ジャーナリスト・大西康之さんの新刊『流山がすごい』から探ってみよう。(以下は同書からの引用)。

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“駅のスゴイ仕組み”とは

 月曜日午前7時の流山おおたかの森駅。東武アーバンパークライン(東武野田線)と、つくばエクスプレスが交わるコンコースで人の流れを観察する。制服を着た園児の手を引いたお父さんお母さんが、改札とは反対側のビルに続々と吸い込まれていく。

 数分すると親だけがビルから出てきて、足早に改札に向かう。園児の制服やかばんがバラバラだ。同じ保育所に預けているわけではないらしい。

 早朝に親子が向かったのは流山市が市内の社会福祉法人に委託して運営している「送迎保育ステーション」。仕組みはこうだ。

 午前7時から7時50分の間に、駅前ビルの3、4階にある送迎保育ステーションに子供を連れて行く。午前8時、市内各所の保育所に通う子供たちがルートごとに送迎バスに乗り込み、9時までに全員が自分の保育所に送り届けられる。

 午後4時、送迎保育ステーションを出発したバスが市内各所の保育所を回って子供たちをピックアップし、午後5時までに送迎保育ステーションに送る。仕事帰りの親は午後6時までに迎えに行き、家路につく。

 流山市民は1日100円、月額最大2千円でこのサービスを受けられる。送迎保育ステーションは通常の保育所も併設しており、お迎えが遅れても午後7時までなら100円、午後8時まででも30分500円の追加料金を支払えば延長保育で預かってくれる。

 流山市がこのサービスを始めたのはつくばエクスプレスの開通から2年後の2007年。最初はバス2台で始めたが、利用者がどんどん増え、翌年には南流山駅にももう一つの送迎保育ステーションができた。今は8台のバスが走っている。流山市在住なら1歳~5歳の誰もが利用できる。ピークの登録者は200人以上。2018年には延べで5万人弱が利用した。その後、コロナ禍で利用者は減ったが、感染拡大が収まれば再び増えるだろう。

クチコミで評判が広がった

 2022年の5月、筆者は都内の会合で知り合った人事コンサルタント会社で役員を務める女性とこんなやり取りをした。

 女性役員「お住まいはどちらですか」

 筆者「流山です」

「ああ、この間、テレビでやってましたね。子供が増えてるって。どうしてですか?」

 筆者がかくかくしかじかと送迎保育ステーションの説明を始めると女性は慌ててバッグからメモ帳を取り出した。

「え、駅前で子供を預かってくれるんですか? 帰りも。もう一度お願いします。朝は7時からで、夜は何時まで?」

「原則6時で、8時まで延長できるそうです」

「へえ、8時まで。明日、電話してみます」

 彼女は業界では名の通ったコンサルタントで、大企業の人事部を相手にバリバリ仕事をしている。都内に住んでいて、就学前の2人の子供を抱えており、ようやく保育所を見つけたが1人ずつしか空きがなく、兄弟で別々の保育所になった。朝、二つの保育所を回って駅にたどり着くのに小一時間かかる。帰りも同じ。多忙を極める彼女にとって2時間のロスはあまりに痛い。

 実はこの送迎保育ステーションを始めたのは流山市が最初ではない。しかし一足先に始めた横浜市では、幹線道路の渋滞がひどく園児を定時に送り届けることができなかった。また他の自治体では「送迎の対象は公立の保育所だけ」というところが多く、利用者から「使い勝手が悪い」と批判が集まっている。

 流山市長の井崎義治は最初から私立の保育所にも門戸を開き、利便性を高めた。すると前記のコンサルタントの女性のように、送り迎えに膨大な時間を割いていた子育て世代の間で「流山の送迎保育ステーションは使い勝手がいいらしい」とクチコミで評判が広がった。

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 もともと都市計画コンサルタントだった市長が手腕を発揮して、駅周辺の近未来的な景観だけでなく、新しい商業施設、緑豊かな公園、旧市街の再生、交通の利便性を生かした産業の誘致など矢継ぎ早に取り組み、今では「千葉のニコタマ(二子玉川)」とも呼ばれる存在となっているという。

 そのかいあって全国792市のなかで2016年から21年まで6年連続で「人口増加率日本一」を達成。少子化と人口減に悩む全国の自治体からみれば、うらやましいかぎりだろう。

デイリー新潮編集部

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