「舞いあがれ!」で異彩を放つ古舘寛治 「演技していないように見える演技」の培われ方

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 俳優の古舘寛治(54)がNHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」の笠巻久之役で強い存在感を放っている。どんな役柄も古舘が演じると、独特の個性が満ち溢れる。本人の生き方も個性的。いわゆる「芸能人臭」がない。その実像とは――。

笠やんと同じく本人も骨太の男

 古舘寛治が「舞いあがれ!」で演じている笠やんこと笠巻久之は第70話でこう言った。

「めぐみさんは覚悟を決めて、ここに立ってはる。俺らも覚悟決める時とちゃうか」(笠巻)

 岩倉めぐみ(永作博美[52])が夫で社長だった浩太(高橋克典[58])の死後もネジ会社「IWAKURA」を続けると従業員たちに宣言した時のことである。従業員たちは会社の将来を心配し、ざわついていたが、古舘の発言によって静まりかえった。

 笠巻はIWAKURAの最古参の職人で古武士のよう男。仕事一徹で寡黙だが、口を開いた時の言葉が重い。生前の浩太から一目置かれ、めぐみにも頼りにされている。

 古舘自身も骨太。日本には「芸能人は政治的発言をしてはならない」という独特の不文律があるが、古館は昨年まで10年以上にわたってツイッターで政治批判を繰り返してきた。ツイッターが引き金となった「アラブの春」(2010年から11年に中東・北アフリカ地域で起きた大規模民主化運動)が発端だった。

「企業献金を禁止にしないと日本の政治は変わらないじゃんね?莫大な献金を大企業、団体からもらってるんだから政府がそっちしか見ないのは当たり前」(2020年5月1日のツイート)

 一方で選挙での低投票率を嘆き、繰り返し投票を呼び掛けた。また2年半前に小泉今日子(56)が政治的発言を行ったところ、一部マスコミが批判した時には怒りを隠さなかった。

「はっきり言うがこういう悪意あるマスコミの言論封殺こそが悪政を守り個を萎縮させてゆく」(同5日のツイート)

 古舘は政治的発言を行う理由について、こう説明していた。

「腐敗した政権には黙っていられない。正義感ではなく、この国がおかしくなったら、僕の人生が暗くなる。自分のために言っているんです」(『サンデー毎日』2021年11月21日号)

 一定の目的を達成したためか、古舘はツイッターを止めたものの、過去にはこんな行動もしている。山口県の上関原発の建設計画に絡み、地元住民と警備会社が衝突しているのをSNSで知った時のことだ。

「なんで、こんな大きな出来事を報じないんだとテレビ局にメールしたんです」(『週刊朝日』2021年6月4日)

 まるでドラマ「エルピス-希望、あるいは災い-」(フジテレビ系)の世界である。

海外の映画関係者も高く評価

 俳優としての評価は極めて高い。重大な秘密を抱える町工場経営者役で準主演した映画「淵に立つ」は2016年にカンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞し、古舘のリアルな演技が海外の映画関係者に激賞された。

 古舘の演技はいつもウソが感じられない。朝ドラ「ごちそうさん」(2013年度後期)で扮した詐欺師・安西真之介役は見るからに胡散臭かった。大河ドラマ「いだてん」(2019年)で演じた真面目人間・可児徳は冗談が通じそうになかった。

 TBS「逃げるは恥だが役に立つ」(2016年)で演じた理屈っぽいバーのマスター・山さんもそう。どこかのバーで出会ったことのあるような人物だった。

 古舘自身、「演技してないように見える演技」(an・an2020年1月29日号)を目指している。日本のドラマ界では顔芸やオーバーな演技がもてはやされる向きもあるが、それは世界基準とは異なる。顔芸をする人間なんて実在しないからである。渡辺謙(63)や西島秀俊(51)ら海外でも高く評価される俳優の演技は例外なく自然だ。

 古舘が自然な演技を学んだのも海外。米国ニューヨークの伝統校「HB Studio」に通い、演技を習った。アル・パチーノ(82)やシンシア・ニクソン(56)が学んだ名門だ。

 生まれたのは大阪府堺市だった。地元の高校を出た後、一時は大学進学を考えたが、映画「ディア・ハンター」(1978年)のロバート・デニーロ(79)に心酔していたことから、デニーロのように人の機微を表現できる俳優に憧れ、上京して劇団に入る。

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