NHK「紅白」VS民放「年末年始特番」 業界のプロが指摘する「勝ち組番組」4つの共通点

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「圧倒的に強い番組」の共通点

 さて、大晦日はそんな感じで各局とも、「紅白との勝負から逃走中」だった。日テレが「笑ってはいけない」シリーズを復活させないのは、世間で言われているような“コンプラ”が理由ではなく、制作費がかかるからではないかと思った。それほど「笑って年越し!世代対決 昭和芸人vs平成・令和芸人」は安っぽい作りだった。生放送でお笑い芸人を集めて番組を作れば、ロケにも編集にもかなりお金がかかる「笑ってはいけない」の数分の1の予算で番組は作れるはずだ。TBSの「THE鬼タイジ 大晦日決戦~鬼と氷の女王~」は「逃走中」の劣化コピーとしか思えず、クオリティは地方の遊園地並み。「ザワつく!大晦日」もさすがに5時間をトークで埋めるのはキツいなという内容だったが、高齢者向けだったので「紅白の自爆」に助けられた感じだろう。

 大晦日に限らず、各局がなんとか節約しながら年末年始特番を作らなければならない状況だったわけだが、そんな中で顕著に見てとれた番組の成否を分けるポイントは、「どれだけリアルさに徹することができたか」ということだったと思う。制作費がないから豪華な番組は作れないし、びっくりするようなチャレンジもできない。それでも、なけなしのお金で視聴者に面白いと感じてもらうには、いかに「お約束」や「虚飾」を排除して、「リアルな面白さ」を見つけてこられたか、というポイントの勝負にならざるを得なかったのではないだろうか。

 私が思うに、この年末年始に面白かった番組はどれも、

(1)素人の天然でリアルな面白さをうまく発見していた
(2)ロケはスタッフが行い「タレントの大げさなレポート」の嘘くささを排除していた
(3)タレントの作り物ではない「素の部分」の面白さをきっちり描けていた
(4)番組が出演者に与えている課題が「必然性のあるリアルなもの」である

 のいずれかを満たしていているものだったと思う。

「圧倒的に強い番組」には、揺るぎのない「リアルさ」がある。「M-1グランプリ」には、その結果によって芸人の今後の人生が大きく変わるという厳然たる「リアル」があるから、ほかのどのお笑い番組よりエキサイティングだし、「箱根駅伝」が毎年人々を長時間にわたって夢中にさせるのも、そこに「学生たちの真剣勝負」があるからだ。

年賀状やおせち料理のように、「年末年始特番」も……

 これから低予算で頑張らざるを得ない日本の地上波には、そういった「リアルさ」が必要なのだ。そういう意味でいうとこの年末年始、「芸能人格付けチェック!2023お正月スペシャル」には、闘病から奇跡の復活を遂げたGACKTのリアルなカッコ良さがあったし、1月3日放送のテレビ東京系「家、ついて行ってイイですか? 新春4時間SP」で取り上げられた“伝説のバンドマン・イノマー”の壮絶な生き様の記録は、圧倒的な素晴らしさだった。

 12月25日のTBS系列「爆笑!明石家さんまのご長寿グランプリ2022」は、「ご長寿ビデオレター」にかなり笑わせてもらった。12月27日に放送された日本テレビ系「ヒューマングルメンタリー オモウマい店4時間SP」のお年寄り職人2人のキャラクターや、12月30日のTBS系「不夜城はなぜ回る プジョルジョDが行く!日本の年末一斉調査SP」のタイ人・サタポンさんの移動スーパーの話をはじめ、やはり面白い素人が持つパワーを最大限に活かしている番組こそが、これからのテレビの理想形なのではないかと思う。

 あと、ぜひ各局の編成担当者に考えてほしいことが2つある。ひとつは「年末年始にドラマの一挙再放送をするのはいい加減にしてほしい」ということだ。テレビマンを休ませて、制作費をゴールデン・プライムの勝負に集中させるには良い方法なのかもしれないが、再放送ばかりになってしまっていてさすがにツラい。

 もうひとつは「特番の長さをもう少し短くしてくれないか」ということ。3時間や4時間、5時間というような長時間の特番はさすがに長すぎる。ぶっちゃけタルい。この「再放送オンパレード&特番長すぎ問題」はきっと長期的にはテレビ離れを加速させると思う。もう少しなんとかならないものか。

 お正月から「年賀状」や「おせち料理」の存在感が消えつつあるように、ひょっとしたら「年末年始特番」も存在感が消えつつあるのかもしれない。これからは普通に「通常番組のスペシャル」を淡々とやるくらいで年末年始を乗り切るのもまた、アリのような気もする。

鎮目博道(しずめ・ひろみち)
1969年広島県生まれ。テレビプロデューサー、演出、ライター、江戸川大学非常勤講師。早稲田大学法学部、デジタルハリウッド大学大学院卒。デジタルコンテンツマネジメント修士(専門職)。1992年にテレビ朝日入社、社会部記者として阪神大震災やオウム真理教関連の取材を手がけた後、「スーパーJチャンネル」「スーパーモーニング」「報道ステーション」や報道制作班などのディレクターを経てプロデューサーとなり、ニュース番組や情報番組などを中心に数々の番組をプロデュース。ABEMAのサービス立ち上げにも参画し、「AbemaPrime」「Wの悲喜劇」などの番組を企画・プロデュース。2019年8月に独立。2023年2月に『腐ったテレビに誰がした? 「中の人」による検証と考察』(光文社)を刊行予定。

デイリー新潮編集部

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