ソフトバンク、育成の“超拡大路線” 他球団の追随許さぬ「4軍制発足」の狙い
移転先を「公募」する“逆入札制”
かつてファームの練習場だった雁の巣、西戸崎の選手寮が老朽化、育成選手の増加も伴って手狭となったことから施設移転を検討していたソフトバンクは、移転先を「公募」することにした。つまり、自治体の方から手を挙げてもらい、そこから球団が選ぶという。
入札といえば、官が募集して、民が応募するものだ。なのに、民が官を募集するという異例の“逆入札制”というわけだ。
2013年8月2日から13日までの公募期間に手を上げた自治体は、九州の5県、34市町。球団が挙げた募集条件は、以下の4つだった。
・4万~6万㎡で分割されていない土地。
・本拠地のヤフオクドーム(当時)から車で1時間圏内、高速のインターチェンジからも20分以内。
・鉄道網など公共交通機関も整備されている。
・20年以上継続した利用可能な土地。
筑後からは、ドームまで高速を使えば車で50分。博多駅から九州新幹線で約25分、鹿児島本線の在来線でも約1時間。九州自動車道の「八女IC」からは約10分、「みやま柳川IC」からも約15分。誘致の候補地とした筑後船小屋駅前の敷地は約7ヘクタール。
つまり、筑後は“ベストマッチ”の場所だったのだ。
税収を上回るメリット
球団は、候補地を福岡県内の4市、筑後、福岡、北九州、宮若に絞り込んだ上で、最終的に「筑後」への移転を決定した。筑後市は7ヘクタールの予定地のうち、住宅メーカーのタマホームが所有する5ヘクタールを約8億円で、残る2ヘクタールの農地や宅地も、1億8600万円で購入。これを球団に20年間、無償貸与することになった。
2014年3月27日、ファームの本拠地を筑後市に立地するという基本協定を締結。土地は20年間の無償貸与、さらに開業後からの3年間は、ファーム施設にかかる固定資産税に相当する額を「スポーツ施設誘致条例」で交付するという条例も制定した。
これは、球団がいったん、固定資産税に相当する額を市に払うのだが、市側は球団と締結した「地域包括連携協定」に基づき、球団の地域貢献活動などの取り組みが計画通り行われているかを精査。議会が承認すれば、一度払ったその5千万円相当を返金するのだ。
人口減少に悩む地方の街にとって、その税収入の“放棄”しても、それを上回るメリットがある。例えば、筑後から1軍へ昇格した選手が、ヒーローインタビューで「筑後」のフレーズを使うことがある。2022年も、コロナ禍で柳田悠岐ら主力が離脱した際、ファームから昇格した若手たちがその穴を埋める活躍を見せ、連日お立ち台に立った。
監督の藤本博史は「筑後ホークスや」と称賛。それが、スポーツ紙の見出しとなり、地元テレビ局でも何度となく報道された。知名度向上の効果は、絶大なものがある。
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