山下泰裕・全柔連会長が熱望した“進学校限定”の柔道大会 意外と厳しい「文武両道」の基準

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山下泰裕会長も熱望

 敗戦直後の日本では、柔道、剣道、空手などの伝統武道が禁じられていた。米国に、日本の軍国主義の温床のひとつと見られたからである。戦前からある柔道の流派の中でも講道館は生き残ったが、京都を本拠地とし柔道など武道の振興を推進していた大日本武徳会は解散させられている。文武両道は、「武」が戦争に繋がってしまっては何の意味もない。

 今大会の開催を熱望してきた山下泰裕・全日本柔道連盟会長(日本オリンピック委員会会長)は「感無量です。コロナで3回も中止され、やっと開催できました。机に向かって勉強する姿勢を失って世の中の動きに無関心になっては、どんなチャンピオンになっても意味がない。過去に各界で活躍した人たちで柔道にも打ち込んだ人が多くいる。この大会がそういう人材を産むため発展してほしい」と情熱的に語った。

 山下会長が今、若者に向けて「社会の動きに無関心になっては意味がない」と発信した言葉は至言である。

 2019年8月に東京で開かれた柔道世界選手権のさなか、イランの代表選手がイスラエルの選手と対戦しないように母国から脅迫されていたという事態が発生した。詳細は省くが、当時、不測の事態を報道陣に丁寧に説明していた山下会長の姿からは、国際情勢を懸命に勉強した様子が見てとれた。

 大会の実現に腐心してきた三本松氏は、「強豪校はその位置を保っているが、一般校の柔道部や部員数は減少傾向で、我々も全柔連も危機感がある。そんな中、文武両道で柔道に励む高校生のため新たなカテゴリーの招待試合を作りたかった。柔道人材を超えて、幅広く産業、教育、公的機関等で活躍できる人材育成に貢献できれば」と期待している。技術的には「寝技の動きを止めず、流れるような立技・寝技連携を追求して一本を取る柔道を目指す」とするのも特徴だ。

 部員が不足する場合、合同チームも申請でき、今大会も群馬県の高崎高校と太田高校が合同チームで奮戦した。

 ロサンゼルス五輪(1984年)以降、商業五輪へと舵が切られ、「スポーツが金になる」時代になって久しい。だが、スポーツ選手への投資が嵩む反動もあって、「一流選手になれないのならスポーツをやっても意味がない」にも似た様相になっている。他の競技でも一般の中学生や高校生の実力は昔より落ちた印象だ。

「名称は古めかしくても文武両道の精神が果たす役割は大きいはず」と三本松氏。柔道から始まった「大いなる挑戦」が他のスポーツにも波及してほしい。

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に「サハリンに残されて」(三一書房)、「警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件」(ワック)、「検察に、殺される」(ベスト新書)、「ルポ 原発難民」(潮出版社)、「アスベスト禍」(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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